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第395話
「白石ッ!!なんかショップの前で、めっちゃキレイでキラキラしたモデルみたいな女がお前のこと待ってる!!あれ誰だよ?!今すぐ紹介しろ!!」
バイトの勤務が終わり、スタッフルームから去ろうとした俺の前に立ちはだかったのは、やけにテンションの高い康介。
……紹介しろと言われても、キレイな女なんて俺は知らねぇーんだけど。
そう思い、まったく心当たりのない女のことを俺は康介に訊き返す。
「誰だよ、キレイな女って。ソイツ、本当に俺の知り合いか?」
「そんなもん、俺が知るワケねぇじゃん。でも白石のこと、ユキちゃんって呼んでた。金髪で、すっげぇキレイな人だった!!」
ユキちゃんで金髪っていったら、一人しかいない。しかも、確かにソレは俺の知り合いだが、あの悪魔はいつから女になったんだ。
「こーすけクン、お前そのうち眼科行った方がいいぞ。外で待ってる俺の知り合い、ソレ、男だから」
「いやいや、白石。冗談キツイっての、あんなにキレイな男がいるかよ?紹介したくねぇからって、俺に嘘つくな!」
扉の前に立ち、キャンキャン騒ぐ康介は鬱陶しい……というより、邪魔でしかない。これ以上康介に構っていられるほど、今日の俺は暇ではないんだ。
「ウソじゃねぇーよ、っつーかそこどけ。金髪悪魔は、キレイで可愛い兄弟の兄貴の方。残念だったな、姉妹じゃなくて」
「なんだよ、ソレっ?!俺は信じねぇ、あのキレイな姉ちゃんを脱がして、ブツ見るまでは信じねぇかんなッ!!」
騒ぐ康介を足で蹴飛ばし、スタッフルームに置き去りにして。外で待つ、光の元へと向かった俺だったが。ショップの壁にもたれてスマホを弄る光の姿を見て、女だと勘違いされたことに酷く納得した。
サイズのデカいパーカーに黒のスキニー、中性的な服装と何よりいつもと分け目の違う髪型は、パッと見モデル級の女だと認識されても仕方がない。
キレイに全振りされた光の容姿と、暗がりに灯り始めたネオンのライト。ここにいるあいだ、コイツは一体どれだけのキャッチに捕まっていたんだろうか。
そんなことを思いつつ、俺が歩み寄っていくと。光はスマホから目線を外し、俺としっかり目を合わせた。
「お疲れ、ユキちゃん」
センターで分けられた前髪と、普段は髪で隠れているハズの耳を出したヘアスタイル。上目遣いで俺を見た光は、やっぱり黙っていればキレイなヤツだと思った。
「……お前、頭どーした?」
どうして光がここにいるのかを訊くより先に、俺が光に投げ掛けた言葉はそんなことだった。クスッと笑い、俺を見た光はくるりとその場で回ってみせる。
「えへへ、どう?西野スタイル」
「はぁ?」
「とりあえず話したいことたくさんあるから、ユキちゃん俺についてきてよ」
何ひとつ理解できてないままの俺に、光はそう言うとスタスタと歩き始めてしまう。
一体何処に向かうつもりでいるのか、西野スタイルってのがなんなのか……それより気になる星のことを考えつつ、俺はいつも以上に人目を惹く男の後ろを歩いていった。
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