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第398話

「うん……でも、せいは知らなくていい世界だから。西野は可哀想な子だけど、腹黒い子なのも事実だよ。俺からすれば、それでもまだ甘い……計算高く生きたいなら、もっと上手くやらないとね」 悪魔が、悪魔を育ててどーすんだよ。 短時間でどこまで深く話してきたかは知らないが、この金髪悪魔に腹黒いと認められた西野は、そこそこの悪魔野郎で確定だ。 「星はもう、全く知らねぇーワケじゃねぇーんだ。弘樹のバカが話してるからな……俺には何も言ってこねぇーけど、西野のことでアイツ、結構ダメージ受けてんぞ」 珍しく星が遅くまで起きていたあの日、弘樹から西野のことで俺に連絡があった。星は俺に何も言わなかったが、色々と一人で考え込んでアイツはきっと寝付けなくなったんだと思う。 あのときから、気になり始めていた西野って野郎の存在。星からたまに話を聞く限りでは、真面目なタイプのダチだと思い、そう気にもしていなかったのに。 「せいは、人を疑うことをしないから……それがせいの長所でもあり、短所でもあるの。でもね、これは俺の勘と憶測でしかないけど、西野が狙ってるのはせいじゃなくてひぃ君だよ」 テーブルに頬杖をつき、俺を見る光。 新しく咥えた煙草に火を点けるため、ジッポを手に取り揺れる炎を近づけて。最初の一口目を深く吸い込んだ俺の眉間に皺が寄る。 「……なんで、弘樹が出てくんだよ?」 ゆっくりと吐き出した煙の行方を辿りつつ、俺は目線を光へと移した。浮かべた冷たい笑顔は変わらないまま、話し始める悪魔の瞳から煇が消える。 「いじめにあっていた自分と似たような境遇の星が唯一、学校内で心許せる相手がひぃ君だから。しかも西野は、ひぃ君がせいを好きだったコトにたぶん気づいてる」 「ないものねだり、だな……けど、欲しがるだけじゃどうにもなんねぇーだろ。それに、まだ確信があるわけじゃないなら尚更だ」 「まぁ、そうなんだけど。オレが気にしてるのは、あの子がどうやってひぃ君に近づいていくかってコト……そこで、せいが巻き込まれなきゃいいんだけどね」 「やなコト言うな、お前の勘は大概当たる」 光の勘の鋭さは、出会った時から変わることがない。むしろ、今の方が磨きがかっているくらいだ。 互いに深く息を吐き、静まり返った部屋の中。 俺たちがいくらここで話し合ったところで、西野のことはアイツら高校生自身の問題。 俺に直接会いに来た幼馴染みの弘樹は別として、星のダチの付き合い方まで俺たちが口を出すことじゃない。 それを重々承知の上で、光は星の成長をずっと見守ってきているのだろう。手を差し伸べたくなるような歯痒い思いを押し殺し、星が悩んで迷ったらその時は頼れる兄として……陰で支えになってきた光の存在が大きいことに、俺は改めて気付かされた。 「報告内容は、これくらいかな。俺的にはとっても楽しい学祭だったよ、ユキちゃん」 消えていたハズの瞳に煇が戻り、冷たく感じた笑顔は温かみを取り戻す。まるでその一言が合図かのように、俺たちはその場を後にした。

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