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第400話

「せい、会いたかったよーっ!」 車へと駆け寄ったオレを抱きしめてくれたのは、雪夜さんじゃなくて兄ちゃんだった。兄ちゃんの爽やかな香水の香りは好きだけど、やっぱりオレは雪夜さんの匂いが一番落ち着くし、安心する。 「……もう、兄ちゃん離して」 モゾモゾと兄ちゃんの腕の中で動いているオレの頭を、雪夜さんは軽く撫でてくれる。 「お疲れ、星くん」 でも。 そうオレに声を掛けてくれたあと、雪夜さんはそのまま弘樹の方へと歩いていってしまったんだ。 二人だけのときなら、抱きしめてくれるのにって。そんなことを思ったオレは、雪夜さんの温もりが恋しくなってしまったけれど。今日は弘樹もいるし、オレは雪夜さんに触れることができないかもしれない。 雪夜さんと弘樹が会う所を目にするのは、ショップで始めて雪夜さんに会ったとき以来だから。なんだか複雑な気持ちになって、オレは兄ちゃんに抱きしめられたまま、雪夜さんと弘樹の姿を眺めていた。 「お疲れッス、白石サン!」 「ん、お疲れ」 雪夜さんに深く頭を下げて挨拶する弘樹と、怠そうに返事をする雪夜さん。高校生と大学生、その二人の姿は、後輩と先輩の仲みたいに見えた。 公園の桜の木の下、偶然集まったオレたち四人。どんどん暗くなっていく景色に、身体に触れる風はとても冷たく感じて。 「お前ら外で話してて、寒くねぇーのか?学祭楽しんできたのはいいけど、あんま遅くまで外にいるとカラダ冷えるぞ」 薄着で寒そうにしている雪夜さんは、そう言ってオレを見て優しく微笑んでくれる。 「そうだよ、ひぃ君。うちの大事なせいが風邪でもひいたらどうするの?二人とも、家に帰るまでが学祭だよ?」 「王子、それ遠足んときに言われるやつッス。俺らもう高校生……って、いつまでセイ抱いてんですか?成長してもこの兄弟愛、ちっとも変わんねぇや」 幼馴染みの弘樹は、オレの今の状態を小さい頃から何度も見ているからか、呆れたように弘樹が小さく呟いた言葉に、雪夜さんは苦笑いしていた。 「まぁ、仲いいならそんでいいけど。光のブラコンは俺が星と会う前からだしって、お前の方がよく知ってるか」 「ハイ、王子もセイも昔からこんな感じで。あ、でも昔の王子は黒髪で、もっとセイに似てたかも」 「ああ、黒髪だった頃の光の顔なんて、もう覚えてねぇーよ……ってか、弘樹。お前、光のコト王子って呼んでんのな。お前が言うと、なんか説得力あるわ」 「ここで話し込むのもなんだし、今日は頑張った二人にユキちゃんの奢りでファミレス連れてってあげよっか!」 「勝手なコト吐かしてんじゃねぇーぞ、バカ王子」 「白石さんも、王子呼びしてんじゃないッスか」 楽しそうに笑う弘樹と、オレの兄ちゃん。 呆れている雪夜さんと、弾む会話を聞いているだけのオレ。せっかく雪夜さんに会えたのに、オレは、自分から雪夜さんに話し掛けることができないままでいた。

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