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第401話
「まっじぃーッ!!こんなん飲めたもんじゃねぇ……王子、自分でミックスしたんだからあと残り飲んでくださいッ!」
「えー?せっかく俺がひぃ君のために作ってあげたのに。全部飲まなきゃ、男じゃないよ?」
四人みんなでやってきたファミレス。
オレの隣にいるのは雪夜さんで、テーブルを挟みオレの向かいにいるのが兄ちゃん、その隣が弘樹なんだけれど。
食事が終わったあと、ドリンクバーのジュースが混ざった怪しい色の液体を見つめ、弘樹は隣に座る兄ちゃんにグラスを差し出していた。
「弘樹、男だろ?んなもん、一気に飲んじまえ」
弘樹にそう言ってニヤリと笑う雪夜さんは、オレに見せる表情よりずっと意地悪な顔をしている。でも、なんだかんだ言いつつ、こうして兄ちゃんのわがままに付き合って、オレたちをファミレスに連れてきてくれた雪夜さんは優しい人だ。
気を遣わなくていいから、好きなの頼めって。オレと弘樹に、そう言ってくれた雪夜さん。言われる前から、気を遣わない兄ちゃんは別だけれど……弘樹もオレも、心置きなく楽しめているのは雪夜さんのおかげだ。
けれど。
テーブルのド真ん中、置かれた怪しい色の液体が入ったグラスは、何も言わずに存在を主張している。
「セイ、頼む……助けてくれっ!」
誰も、手をつけようとしないグラス。
弘樹が最初の一口を飲んでから、減ることのない謎の液体。これぞまさしく親友のピンチ、なんだろうけれど。
楽しそうに笑う兄ちゃんと、意地悪な雪夜さんから向けられる視線が、お前は飲むなとオレに訴えるから。
「……弘樹、頑張って。残しちゃうのはもったいないし、どんな味なのかは分からないけど、ジュースには変わりないはずだから……ね?」
助けてあげたい。
でも、オレもさすがにコレは飲めそうにないなって思ってしまった。ごめんねって、心の中で謝っていたオレと、絶望しながら声を荒らげる弘樹。
「セイまで、俺を見捨てるのかよぉっ!俺なんも悪いことしてないのに、なんでこうなんだっ?!男だって言うけど、ここ四人全員野郎じゃないッスか!」
「まぁ、そうなんだけどねー。んー、なんでかなぁ?強いていえばキャラ?」
「だな、お前はなんもしてなくても遊ばれるヤツなんだよ。まぁ、どうしても飲めそうにねぇーなら無理すんな。ここでリバースされても困るだけだし」
「白石サーンっ!神様ッス!!」
「えー、つまんないっ!それにユキちゃんが神様なんて、ありえないでしょ?」
「弘樹の憧れの人は、雪夜さんだから」
でも、雪夜さんはオレのだもん。
今はいつもみたいに甘えることも、触れることもできないし、今日の雪夜さんは弘樹にちょっぴり意地悪だけれども。
意地悪されてるはずの弘樹に、神様だって言わせちゃうくらい、雪夜さんは心が温かい人だから。やっぱり太陽みたいだなって、そんなことを思いながら、オレは隣で笑う雪夜さんをぼんやりと眺めていた。
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