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第402話
「ひぃ君、ユキちゃんに憧れてるの?将来、こんな変態野郎になるつもり?」
そんなことを弘樹に尋ねている兄ちゃんは、綺麗な金髪を指に絡ませ、弘樹と雪夜さんを見比べ笑っている。
「お前な、人のコトなんだと思ってんだ。変態なのは自覚あっけど、お前に言われたくねぇーよ」
そう言って、ニヤリと笑う雪夜さん。
テーブルの下、ソファー上……少しだけ隠すように、そっとオレの手に重ねられた雪夜さんの手は温かくて。今日は触れることができないんじゃないかって、寂しく思っていたオレの心を安心させてくれるけれど。
「あ、あの……」
触れられている雪夜さんの手を払い除けることもできず、上手く話に入ることもできず。憧れの人の話から、なぜか方向性がおかしなほうへと一直線に進んでいる気がしてならない会話に溜め息が漏れた。
「俺は別に、変態になりたいわけじゃないんッスよ。白石サンってサッカーやってるし、なんか頼れる兄貴っつーか、優しい先輩って感じがして……だから、俺も白石サンみたいな大人になれたらって思ってるッス!」
「勝手に憧れんのは構わねぇーけど、俺そんないいヤツじゃねぇーからな」
……ウソ、ばっか。
いい人じゃなかったら、こんなふうに四人で仲良くファミレスにいないじゃん。歳下のオレたちが気を遣わなくて済むように、先に気遣って声を掛けてくれたりしないもん。
雪夜さんは謙遜するし、自分はいい人間じゃないって本気で思っていると思うけれど。弘樹が憧れるのも納得できるし、なによりオレが大好きな人なんだから……だから、雪夜さんはいい人です。
なんて。
オレの心の内にある思いは、誰の耳にも届かぬままだ。
「ねぇ、憧れとかどうでもいいけど、俺のミックスジュースぅーは、結局どっちが飲んでくれるの?」
「どっちも何も。弘樹が飲めない時点で誰も飲まねぇーよ、こんなもん。今日は執事もいねぇーし、残念だったな」
雪夜さんは何食わぬ顔で、兄ちゃんと弘樹と話しているけれど。隠れた場所で重ねられている手は、ゆっくりと絡み合うように恋人繋ぎに変わっていく。
それと同時に、バレたらどうしようって。
ドキドキしてしまう気持ちが強くなり、オレは一人で恥ずかしくなって……向かいにいる兄ちゃんと弘樹を見ることができず、俯いたまま。
「王子、コレはホントにエグい味ッス」
「そうだろうねぇ、全部少しずつ混ぜたもん。優だったら『不味い、勿体無い』っていいながらちゃんと全部ゴックンしてくれるのにぃー」
「ゴックンって、なんか王子エロい……」
「あーっ!顔赤くして、ひぃ君ヤラシイ。さすが高校生、反応が早くてよろしい」
「一番の変態はお前だな、光」
オレは話を聞いているつもりでも、雪夜さんの手の動きに勝手に意識が集中してしまう。指先で軽く撫でられる手の甲がくすぐったくて、ぴくんと身を縮めたオレを、雪夜さんはテーブルに肘をつき満足そうに眺めているから。
……一番の変態さんは、やっぱり雪夜さんだ。
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