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第404話
オレの思いとは関係なく、雪夜さんを感じて悦ぶオレの身体。カーディガンを掴む手に勝手に力が入り、狭い車内で身を捩るオレの体温は上がっていく。
「ンっ…ぁ、雪夜さん…」
耳の裏側、付け根の辺りを優しく指先で撫でられているだけなのに。普段は髪で隠れていることが多いその場所は、雪夜さんに触れられると素直に感じてしまう。
「はぁ…もぅ、あっ」
オレの耳から首筋へと、降りてくる雪夜さんの左手。甘噛みされた耳朶にかかる吐息は熱く、わざと濡れた音を立てて離される唇。
「星くん、相変わらず溶けんの早いな。ココ……イジメ倒したら、お前耳だけでイけたりすんじゃねぇーの?」
オレだって、どうしてこんなにも感じてしまうのか分からないんだ……だって、そもそもこの感覚は全部、雪夜さんがオレの身体に教え込んだものだから。
「はぁ、ァ…やめっ」
クスっと笑う声が聞こえて、オレは潤んだ瞳で雪夜さんを睨みつけた。溶けていく脳内で精一杯の理性を保とうとするオレに、雪夜さんは余裕そうな顔をして楽しそに目を細めて笑う。
「今度、試してみっか?」
「……え?」
「さすがにお前ん家の前で最後までヤろうとするほど、俺もガキじゃねぇーから。今日はここまで……続きはまた、会ったときにたっぷり可愛がってやるよ」
絡まった視線の先、ニヤリと上がる口角は満足感を現していた。最初から途中でやめるつもりでいたなら、こんなに甘ったるい雰囲気にしないでほしいのに。
「もぅ……雪夜さん、意地悪ですっ!」
熱を持ってしまった身体は、自分じゃどうしようもできないから。それなりに冷めるまで、時が過ぎるのを待つ方法しかオレは知らないんだ。
雪夜さんに触れていたくて、でもここでこれ以上感じることはできなくて。やり場のない想いを、オレは雪夜さんに直接ぶつけることにした。
「……いッ!」
雪夜さんだけがオレを見て満足するのなんて、ずるいもん。噛み慣れた鎖骨も捨てがたいけれど、今日はそんなに優しくできないから。
そんな思いを込めて、オレが仕返しのために噛み付いた場所は、雪夜さんの喉仏だった。
痛みとともに、奪った呼吸。
苦痛で歪む雪夜さんの表情とうっすら首に残る痕を見て、オレにも満足感がこみ上げてくる。
「星、不意打ちで噛む場所じゃねぇーだろ……ったく、お前はいつからそんな悪戯好きの仔猫になったんだ」
「オレは、猫さんじゃないですよ?」
雪夜さんの家にいる、黒猫のぬいぐるみのステラもオレに似てるって雪夜さんは言うけれど。オレは、猫さんみたいに可愛らしい存在じゃないと思う。
というより、今はそれよりも。
「噛んだのは、雪夜さんへの仕返しですっ!」
少しだけ膨らんだオレの頬に、ふわりと落とされたキス。たぶんものすごく痛かったはずなのに、雪夜さんはオレが噛み付いてもこうやって優しく受け止めてくれる。
「なるほどな。鎖骨じゃなくて首だったのは、星くんの欲求の表れってコトか」
「そんなつもりじゃ」
……ないこともない、かも。
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