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第405話
タイムリミットは、21時まで。
オレの両親が心配するから、ちゃんと家に帰れって……あれだけやんちゃしてそうなクセに、雪夜さんは真面目な人だから。
離れたくないとただをこねて、カプカプと噛み付いていたオレを笑って宥めると、雪夜さんは最後にキスを落として帰ってしまった。
今度雪夜さんに会えるのは、来週の週末。
それまでオレは、この収まらない熱をどうにか耐えなきゃならないんだ。
「……雪夜さんの、バカ」
自室に帰ってきて独り、吐いた溜め息とともに出てきた言葉は悪口だった。こんなにも中途半端な状態で放置されてしまったら、文句の一つも言いたくなってしまう。
雪夜さんに従順すぎるオレの身体は、主人のオレの意見をまったく聞き入れてくれない。それどころか、雪夜さんに教えられた通りに、いつも泣いて強請っている。
正直、オレは自分の身体にそこまで興味がないから……一人でこの熱を、欲の処理をしようとは思えないんだけれど。雪夜さんだけにしか向かない欲求は、もうどうしようもなくて。
とりあえず、学園祭で貰った飴でも舐めて落ち着こうと思い、オレはバッグの中を漁ってみる。すると、カボチャやコウモリのイラストになっている切り飴が出てきた。
ハロウィンかぁ……なんて、ぼんやり考えつつ、オレは部屋を見渡すけれど。オレが部屋にいないあいだに、弄られたウサギさんのぬいぐるみがライオンさんに襲われているのを発見してしまって。
「もう、兄ちゃんもバカっ!」
自由に優さんと会える兄ちゃんが羨ましくて。
重なってるぬいぐるみが仲良さそうにしているのが、余計に心苦しくて。
雪夜さんに会えたことはとても嬉しかったのに、学園祭だって楽しかったのに。四人でいったファミレスだって、楽しく感じていたのに。雪夜さんに甘え足りないオレは、ベッドに転がりクッションを握りしめた。
好き過ぎて、苦しい。
こんな気持ち、雪夜さんと出逢うまで知らなかった。どんどん増えてく欲求も、募るだけの寂しさも。雪夜さんだけに向けられる特別な想いは、溢れていくばかりなんだ。
「雪夜さん、好きだよ……」
届かない言葉を呟いて、目を閉じる。
さっきまでオレを抱きしめてくれていた手は、今頃ハンドルを握っていて。甘い声で囁いて、優しいキスをくれる唇は、きっと煙草でも咥えているんだと思う。
家に着いたら連絡だけ入れるって、雪夜さんはそう言っていたけれど。その連絡を待ってる時間が、とてつもなく長く感じてしまうから。オレはのろのろとベッドから起き上がると、汗を流すためにお風呂場へと向かうことにした。
お風呂に入ってゆったりすれば、少しは気が紛れると思っていたオレだったけれど。脱衣所で着ていた服を脱いだとき、落としたくない移り香の匂いがして。
着ていた服を洗濯かごへ放り込むだけなのに、それすらも切なく感じてしまったオレは、脱いだシャツをきゅっと掴んで、しばらく顔を埋めていた。
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