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第406話
【雪夜side】
甘え足りていないであろう星を家に帰し、帰宅して。ベッドに転がり目を閉じれば、やってくるのは次の日の朝だ。寝ぼけた頭を無理矢理起こし、俺がやる気なく向かった先は大学。
……朝イチで講義とか、マジだりぃ。
そう思いながらもそれなりにペンを走らせ、隣りで眠る康介の腕にマジックで『変態』と書いたりして暇を潰した。緩く過ぎていく時間を感じつつ、昼になり目覚めた康介を連れ、俺は今、学食を食いにきている。
ワンコインあれば、ある程度満足できるメニューが揃っている学食。日替わりパスタランチを選んだ俺と、大盛りのカツカレーを選んだ康介。胃がもたれそうなカレーを寝起き一発目で食える康介が、かなり男らしく感じた。
二人掛けのテーブルにつき、向き合って食事をしていたとき。康介はやけに神妙な顔をして、俺をじっと見つめてくる。
「白石、仔猫ちゃんとケンカでもしたのか?」
「は?ケンカなんかしねぇーよ」
持っていたフォークを皿において康介を見た俺は溜め息を吐き、手の甲にある傷に触れる。
「なら、首のソレはどうしたんだ?仔猫ちゃんがつけたやつじゃねぇの?」
「ん、仔猫がつけたやつだけど……ソレが、ナニ?」
「ナニじゃねぇよ!今回の痕、痛々しいにもほどがあるぞ。仔猫ちゃんとケンカして、噛まれたのかと思った」
昨日の夜、星に噛まれた喉仏には小さな歯型が残っている。それだけじゃない、手にも腕にも鎖骨にも……星くんが噛んだいくつもの痕が、俺のカラダに残っているから。
「まぁ、さすがに今回は結構いてぇーな。噛まれたとき、一瞬息止まったし……けど、悪戯好きな仔猫もすっげぇー可愛いから、もう好きにさせといた」
痛いのは事実だが、ソレ以上に可愛いのもまた事実。欲求不満な星くんは、少し荒くて噛む力も強かった。
思い出し、ニヤける頬は緩んでいく一方だ。噛まれた痕が残る自らのカラダを、大切にしてやりたいとさえ思えるのだから。
「白石って、そんなにアホだったか?今はともかく、バイト中とかどうやって隠すんだよ?」
「ああ、アンダー着るから平気。アレなら、首隠れても違和感ねぇーだろ。最近冷えてきたし、一石二鳥だ」
「白石、お前はホントにムカつくファッションセンスしてんな。俺なら季節先取りで、マフラー巻くくらいしか浮かばねぇよ」
「どこにキスマ隠すために、マフラー巻いてショップ彷徨く店員がいんだよ。アホじゃねぇーの」
「いやいや、お前のはキスマなんて可愛いもんじゃないからな。どんなに可愛くても、喉噛まれるとか無理だ」
「執着と欲求の表れだ。愛してるって言われてるのと変わんねーから、なんの問題もない」
可愛い星がすることなら、なんだって受け入れてやれる。そんなことを思いながら康介の後ろに視線を向ければ、俺と同じ大学に通う金髪悪魔が彷徨いていた。
「ねぇわ、なんか色々ありえねぇ……」
「んじゃ、俺がお前にもっとありえねぇーコト教えてやるよ」
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