408 / 952

第408話

今まで優と一緒にいたから、珍しく光がカフェテリアに一人でいたワケか。たまに大学内で光の姿を見掛けるが、光は大抵男女問わずさまざまな相手を引き連れているから。ただ、そんなことどうでもいい俺は、見て見ぬ振りをすることがほとんどだ。 「お前が大学内一人でうろつくコトなんか、滅多にねぇーだろ。悪夢が奴隷引き連れて歩いてんの、よく見かけんぞ」 「奴隷なんて失礼な。一応、みんなお友達だよ。人に興味ないユキちゃんと違って、俺はそれなりに、お友達付き合いは大事にしてるからね」 「ソレ、ダチだと思ってねぇークセに。悪魔の顔の上から、貼り付けた笑顔振りまいてるだけだろ」 「ユキちゃんは群れないから、そう見えるだけ。生きてればこのくらい、誰でもしてることだから大丈夫」 「そういうもんか。それにしても、あの執事の荒い運転で、高速使ってよく生きていられたもんだ」 「優の運転は、ある種のアトラクションだよ。車の運転って人が変わるんじゃなくて、その人の本性が現れているだけだっていうしね……それより首、今回酷いけど、ユキちゃんあの子にナニしたの?」 名を伏せて話す光が、気にしているのは星のことだ。そこまで酷い痕が残っているとは思えないが、噛まれた箇所に原因があるのか、康介にも指摘された星くんの歯型。 「お前が心配するようなコトは、なんもしてねぇーよ」 強いていうなら、可愛い仔猫におあずけくらわせたくらいか。先に悪戯を仕掛けたのは俺の方だし、頬を膨らませながらも俺に甘えたくて噛みついてくる星が可愛くて。仕返しと称して噛まれた痕は、不仲じゃない証拠なのに。 「まぁ、それだけの痕ついてたら女の子もユキちゃんに声掛けづらいだろうし、虫除け効果は抜群だね」 「だろ。アイツ本当に可愛いすぎだ」 「当たり前でしょ、大切に育ててきてるんだから……ねぇ、ユキちゃん、この子はいつまで動かないつもり?俺、そんなに女に見えるのかな?」 未だフリーズし、動かない康介。 余程ショックだったのか、受け入れ難い事実に頭がついていけていないのか。光を見慣れている俺は、やっぱりこの金髪悪魔はキレイな顔した男だという認識しかできない。 「女に見えるっつーか、コイツが勝手にそう思い込んでるだけだろ。光は男だって言ってやったんだけどな……お前がキレイすぎて、このバカはお前のブツ見るまで信じねぇとか、なんとか言ってたぞ」 「なにそれ……まぁ、いいや。モノ見て分かるならその方が早いし、ちょっとコウちゃん連れて、お手洗いにでも行ってこようかなぁー」 「いや、お前マジで言ってんの?」 「さて、それはどうでしょう?」 崩れることのない笑顔に、頭から覗く角。 カタッと音を立てイスから立ち上がった光は、呆然としている康介の耳元で何か囁きかける。その光の行動でロボットのように動き出した康介は、光のあとを追い始めて……二人とも、俺の前から姿を消してしまった。

ともだちにシェアしよう!