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第409話
「お前、光にナニされてきた?」
再び俺の前に姿を見せたのは、生き返った康介だけだった。金髪悪魔はゼミがあるからと、康介を残しヒラヒラと消えていったというが。
「なにもされてねぇ……けど、やっぱ光ちゃんすっげぇキレイだわ」
バカな康介の話す内容じゃ、ナニがナニしてどうなったのかイマイチよく分からない。二人が戻ってくるまでのあいだ、ブラックコーヒーを飲みつつ、煙草も吸わずに大人しく待っていてやった俺が可哀想だ。
生き返っても尚、頬が緩んでいる康介を見て、無意識に漏れた溜め息は大きかった。とりあえず煙草を吸うため、俺は康介を連れてカフェテリアから中庭へと移動する。
広いキャンパス内では、光以外にも人はいるんだが。なぜか光に興味を持ってしまった哀れな男の姿を何度か横目にしつつ、辿り着いた中庭で俺は一度伸びをした。
「……んで、光が男だってちゃんと証明されてきたんだよな?」
「された。保険証に、男って記載されてた」
空いているベンチに腰掛け、ようやく咥えることのできた煙草に火を点けて。吸い込んだ煙はほのかな甘さを口内に残し、じんわりとカラダに沁みていく。
「モノ見せてって、さすがにブツまで見せたワケじゃねぇーんだな」
「何の話してんだ、白石?」
「分かんねぇーならいい、こっちの話だ」
……あの悪魔め。
ただ保険証見せるだけなら、俺に余計な前置きしてくんじゃねぇーよ。トイレまで行く必要ねぇーだろ、アホか。
光に対して抱いた苛立ちを、俺は煙草のカプセルを奥歯で噛み潰して押し殺す。康介とともに光に遊ばれた気しかしないが、それでもコイツはそんなこと微塵も思っていないらしい。
「白石、俺さ……男でも、あれだけキレイなら大丈夫かもしんねぇわ」
開いた膝の上に肘をのせて、両手を絡ませ口元を隠す康介。大丈夫、その意味を問いただしたくはないと思ってしまうのは、俺だけなんだろうか。
吸い込んだ煙に、フレーバーの甘さが増す。
女だろうと、男だろうと、好きになったらそんなことは関係ないと、言ってやりたいところだが。
「いや、ねぇーだろ……アイツ、キレイなだけで悪魔だし。お前、まさか光に惚れたとか言わねぇーよな?」
一目惚れ、それは俺が星を見たときに起きた現象だ。あのとき、まるで魔法にかかったような感覚にとらわれたが、その魔法は今も解けていないまま。
ただ……もしソレが今の康介に、しかも相手が光で起きている現象だとしたら色々マズイ。
「惚れたっつーか、うん。惚れたっぽい」
光り輝く王子様に出逢ってしまった、バカな民。有能な執事を目指し、悪魔の奴隷とかしていくのか……または、遠くでそっと見つめ続ける民のままで終えるのか。
その引き金を引いたのは、たぶん俺だと思うけれど。予想外の展開で、コイツの恋の行方まで面倒みなきゃならないなんて。
……そんなこと、俺は御免だ。
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