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第412話

なかなか来ることのない、光からの連絡。 食事も済んでしまい、そのうち優とも話す話題がなくなった俺はスマホを見つめていた。 「……雪夜、お前は分かりやすい奴だな」 俺とは違い甘党の優は、デザートに抹茶のロールケーキなんてもんを食べながら、俺にそう話しかけてくる。俺は返事をすることもなく、視線だけを優に向け首を傾げた。 「LINEでもしているのか……相手は、星君だろう?さっきから少しだが、頬が緩んでいるぞ」 自分でも気付かぬうちに、どうやら星の癒し効果を感じていた俺は優に問い掛ける。 「俺、そんなに顔に出てんのか?」 確かに、俺がLINEで話している相手は星で間違いない。今日は一日、俺のことを考えて授業に集中できなかったとか、噛んだ箇所は痛くないかとか……星から送られてくる可愛いLINEの内容に、俺の頬は勝手に緩んでいたらしい。 そんな俺を見て、クスッと笑う優は嬉しそうに目を細める。普段あまり表情が変わらない優が、こんなふうに俺に笑いかけるのは珍しいと思った。 「親しい奴しか分からん程度に、顔に出ている。何にも興味なく冷めていた男が、随分と優しい顔をするようになったものだな」 「あー、星くんマジックらしい」 「光らしいネーミングだ」 誰もあの金髪悪魔からの言葉だとは言っていないのだが、察した優はさすがだと思う。テーブルの上に置かれた鳴らないままの優のスマホに一度だけ視線を移し、大人しく待っている執事を俺は憐れんでしまう。 「いつまで、待たせるつもりでいんだろーな」 「王子様は皆が帰るまで、自ら先に抜けてくることをしない。誘われたら、そのまま次の店にも行くだろう……酒に強い光のことだ、あと30分は連絡がないままさ」 軽く溜め息を漏らし、ロールケーキがなくなった皿に向けて静かに両手を合わせた優。そんな優の姿を見て、今日は光からの連絡が来るまで俺は優に付き合ってやろうと思った。 「仕方ねぇーから、日付け変わるまでは一緒に待っててやる。今日はお前の奢りだし」 「雪夜から同情されても嬉しくはないが、その気持ちは有り難く受け取るとしよう。星くんマジックとやらは素晴らしいものだな、雪夜はただの性欲の塊だと思っていたのに」 「俺は、お前が思ってるほどクソじゃねぇーぞ」 「今は、の話だろう?」 「それな」 互いにニヤリと笑い、自然となくなる会話。 それでも独りより二人ほうが、待つ時間は短く感じる。 俺の手の中で震えるスマホは星からの返信を伝え、通知された内容を見てまた頬が緩んでいく。こうして連絡を取り合っていると、離れていても近くに感じる星のこと。できれば声が聴きたいし、欲を言うなら触れていたい。 週末に会う約束をしている俺たちは、その日がくるのが待ち遠しくて堪らないのだが。そんな俺と星よりも、王子様の帰りを健気に待っている執事の方が、今はその時を待ち遠しく感じているんじゃないかと思った。

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