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第416話
あんなに真面目な西野君に、退学なんて言葉は似合わない。それに、西野君がおかしなことをしているって証拠は、まだ何もないんだ。
「んー、オレには西野君が弘樹の言ってるようなことしてるとは思えないんだけど。男の人と腕組んで歩いてたってだけじゃ、退学になったりしないでしょ?」
西野君を100パーセント信用することは、できないけれど。でも、西野君は大事な友達だから。最初から疑ってかかるのは、やっぱり気が引けてしまうんだ。
『まぁ、セイが無理して疑う必要はないけどさ。でも、あの人が不安になるようなことは避けてほしい』
小さく吐かれた溜め息のあと、弘樹がオレに投げかけたのは、雪夜さんを気遣う言葉だった。弘樹より、オレのほうが雪夜さんを知っているのに……なんだか、すごく気に食わない。
「雪夜さんが不安になるようなことって、ナニ。オレと西野君が一緒にいるからって、なんで雪夜さんが不安になるの」
弘樹のときように、西野君に告白されたわけでもないのに。雪夜さんが不安になる理由がよく分からなくて、オレは弘樹にそう尋ねた。
『西野と一緒だからっていうか、なんていうかさ……うまく言えねぇけど、あれだよ、不安ってより、心配だ、心配』
「心配、するかな?」
『そりゃするだろ。俺が言える義理じゃないけど、セイは親友に押し倒されてるし、自分が可愛くて色気あることまったく自覚してねぇし……あの人、内心すげぇ心配してると思う』
「なんか、からかわれてる気しかしないんだけど」
『そういうわけじゃないって、マジで。前にも言ったけど、何かあってからじゃ遅いってだけ……今後、西野と一緒いて少しでも変だなって思うことがあったら、今日みたいに相談してくれ』
「……うん、わかった」
『セイの頭ん中があの人で染められてるように、白石サンもきっとセイのことを一番に考えてるはずなんだ。俺の想いの分まで、セイはあの人から愛されてんだから』
真剣な弘樹の声に、胸の奥が熱くなる。
「弘樹、ありがと」
『どういたしまして』
雪夜さんとの関係を知っている弘樹は、何でも話せる大切な親友だ。電話越しでもお互いに暖かい雰囲気が漂う中、聞こえてきた兄ちゃんの声にオレはビクッと反応して。
「せーい、入るよー?」
コンコンとノックの音が聞こえたあと、まだオレが返事をしていないのに、勝手にオレの部屋に入ってきた兄ちゃんはオレを見てにっこりと笑う。
『……王子?』
兄ちゃんの声が電話越しから聞こえたのか、クスッと笑った弘樹は、また明日と言って一方的に通話を終了してしまった。
「電話中だったんだ?相手はユキちゃん……じゃなくて、ひぃ君かな?」
「うん、弘樹。学校のことを色々と話してたけど、兄ちゃん入ってきたから切られちゃった」
用がなくなたったスマホを握り、笑う兄ちゃんにそう言ったオレがベッドに転がると、なぜか兄ちゃんもオレの隣に転がったんだ。
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