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第417話

「小さい頃はよくこうして、二人並んで寝てたのに……せいが今寝てる相手は、ユキちゃんだって思うと妬けちゃうね」 隣にいるオレの頬をつんつんとつつきながら、兄ちゃんはケラケラと楽しそうに笑っている。 「何言ってんの、兄ちゃん……それより、何か用事があってきたんじゃないの?」 用事がなくても兄ちゃんは、勝手に入ってくることが多いけれど。とりあえず話を逸らしたくてオレがそう尋ねると、兄ちゃんは何かを思い出したみたいで。 「あ、そうそう。俺が高校の時に着てたコートをせいが着るか訊いてこいって母さんに言われたんだった。寒くなってきたから、せいが着るならクリーニング出しとくって」 「兄ちゃんが着てたのって、あのダッフルコート?」 「うん、せいが着たいって言ってたやつ」 兄ちゃんが高校生の時に着ていた、淡いキャメル色のダッフルコート。中学に上がったばかりのオレから見たそのコートは、とっても素敵に見えて。兄ちゃんが着なくなったら、オレが着るから捨てないでって、母さんに言ってあったことをオレはすっかり忘れていた。 「着る、着たいけど……オレに似合うかな?兄ちゃんが着てたから似合ってただけで、オレが着たら変じゃない?」 「そんなことないない。あの時まだ黒髪だったし、デザインシンプルだからせいでも似合うと思う。他にも何着か俺の着てた冬服とってあるみたいだから、着たいのあったら母さんに言うといいよ」 「うん、ありがと。高校入って、ほとんど制服着て過ごしてるから、私服が増えるのは本当に助かる……兄ちゃん、センスいいし」 「ユキちゃん清楚なの好きそうだから、制服でも問題ないと思うけど。むしろ悦んでそう、さすが変態だね」 雪夜さんが制服好きかどうかは知らないけれど、オレは兄ちゃんに訊きたいことがあって。 「ねぇ、兄ちゃん……色気って、どうしたら出るの?」 オレに微笑んでくれる兄ちゃんは、高校生の時からすでに大人びて見えていたのに。オレは兄ちゃんと比べると色気もないし、まだまだ子供っぽくて凹んでしまう。 あんなに可愛らしい西野君ですら、色っぽく見えたのが少しだけ羨ましくて、オレは兄ちゃんにそんなことを質問していた。 「……色気って、せいはどこまでユキちゃんを虜にさせるつもりでいるの?」 結構真剣に質問したのに、返ってきた兄ちゃんの言葉は斜め上をいく返答で。 「いや、そういうことじゃなくて。単純に、どうしたらいいのかなと思ったの」 「せいも意外と、罪な男だねぇ……今以上に色気なんて身に付けたら、ユキちゃんせいを溺愛するどころじゃ済まなくなるよ?」 「どうして?今のオレに、色気なんてないのに」 首を傾げたオレに、兄ちゃんはクスッと笑うと耳元で囁いてくる。ふわっと耳にかかった息はくすぐったいけれど、雪夜さんにされるときのような甘い疼きは感じなかった。 「せいがユキをもっと虜にできる、とっておきの方法……教えてあげる」 でも。 兄ちゃんが言ったその一言は、オレの心をグッと掴んで惹きつけたんだ。

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