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第418話

「……本当に、それだけでいいの?」 兄ちゃんから教えてもらった、色気を出す方法。でも、ソレのどこに色気があるんだかオレにはさっぱり分からない。 自信たっぷりで笑う兄ちゃんの流し目は、とても色っぽく感じるけれど。自分に自信なんてないオレには、自分の魅力が分からないままだ。 「ユキを虜にしたいなら、それだけで充分。たーだーしぃーっ、ユキ以外の前では絶対にしちゃダメ。というより、ユキの部屋にいる時だけにして」 「え、なんで?」 ものすごい圧で念を押され、オレは戸惑ってしまう。 「ユキの前で実際にやってみたら、答えが分かる……あ、あともう一つ。色気とか考えずに、せいは思うままユキに溺れるだけでいいよ」 「雪夜さんに、溺れる?」 「そう、創り出した色気なんて飾りモノと一緒だから。あの男は着飾るタイプ嫌いだし、男はみんな自分に溺れてほしいって思ったりするものだからね……ほら、こっち座ってごらん?」 ポンポンとベッドを叩いて兄ちゃんに座るよう促されたオレは、体を起こしてベッドに腰掛ける。立ち上がりオレの前で微笑んだ兄ちゃんは手の甲でスッとオレの頬を撫でると、優しく声を掛けてくれた。 「ゆっくり目を閉じて、それでユキの好きなところを考えてみて?」 兄ちゃんにそう言われ、目閉じて考えてみる雪夜さんのこと。好きなところなんていっぱいありすぎて、考え出したらきりがないけれど。 頭の中に浮かんだ雪夜さんは、オレの名前を呼んで、愛してるって幸せそうに微笑んでくれる雪夜さんの姿。 「そろそろいいかな。せい、目を開けて……ユキのために笑って」 兄ちゃんの声に反応して、オレは閉じていた目を開け雪夜さんのことを想い、兄ちゃんに微笑みかけた。雪夜さんと一緒にいて、幸せだなって思ったときの気持ちで笑ったオレを、兄ちゃんはぎゅっと抱きしめてきて。 「……うっ!」 「あーもうっ、可愛いすぎる。やっぱりユキにせいはもったいない……けど、相手がユキじゃないと、その顔してくんないんだよね」 苦しく感じるくらいに抱きしめられ、オレは兄ちゃんの腕の中でもがくけれど。 「兄ちゃん、言ってる意味が全然分かんない」 声に出した通りの言葉を頭の中で考えていたオレに、兄ちゃんは息を吐くとその意味を教えてくれる。 「せいの内面から出る自然な可愛いさと、色気の話。誰にも真似できないせいだけの、ユキだけに向けられる特別な魅力。だから、せいはそのままでいいの」 「じゃあ、さっき兄ちゃんに教えてもらったことは役に立たないの?」 「役に立つかどうかは、今度ユキに会ったときに試してきてごらんよ。とっておき……だから、ね?」 人差し指を唇に当て、ウインクする兄ちゃん。そんな姿ですら様になる兄ちゃんが教えてくれた、とっておきの方法。 けれど、オレは半信半疑のまま。 綺麗な兄ちゃんの微笑みを、ただぼんやりと眺めているだけだった。

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