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第419話
雪夜さんを虜にさせる、とっておきの方法。
ソレを、オレが試す日がやってきた。
いつも通りの週末、金曜日の学校帰り。
オレが向かった先はもちろん雪夜さんの家のマンションで、合鍵を使って家の中に入ったオレだったけれど。
「……あれ?」
玄関の棚の上にあるキーフックには、雪夜さんの車の鍵と家の鍵がかかっていた。今日はバイトで家にいないし、迎えに行けなくてわりぃーなって、昨日電話で言っていた張本人がどうして家にいるんだろう。
そう思いつつも、部屋の扉を開けると。
「あ、お帰り星くん」
いないはずの雪夜さんは、煙草を咥えてステラを抱えパソコンを見つめていたんだ。ブルーライト用の眼鏡をかけ、首元が開いた緩めのニットセーターを着て。ぬいぐるみを抱いている雪夜さんの姿は、とってもセクシーで可愛らしい。
でも。
……ステラ、ずるいよ。
やっと二人きりで会えたのに、いないと思っていた雪夜さんは目の前にいるのに。雪夜さんに抱きしめてもらっているのが、ステラってのがどうしようもなくムカついて。
「……むぅ」
思っていたより早く会えた嬉しさと、ステラへの嫉妬心。中途半端にお預け状態の身体は我慢していた分、跳ね返ってきた欲求に耐えられない。そんなぐちゃぐちゃに混ざりあった感情は、オレの言動を狂わせていく。
学校の鞄を床に置き、オレはズカズカと雪夜さんに近づいて。そのままステラを奪い取ると、ベッドに粗く投げ捨てた。黒くモヤモヤとした闇に呑まれて、なんだか自分じゃないみたいだけれど、動き出したら止められない。
「……星?」
雪夜さんが名前を呼んでも答えずに、綺麗な指の間にある煙草を取り上げて。オレはテーブルの上にあった灰皿でグリグリと煙草の火を消した。
ついでに、制服のジャケットも脱ぎ捨て、しっかりと締めていたネクタイを片手で引っ張り緩めていく。
兄ちゃんから教えてもらった雪夜さんを虜にする方法とは、全然違うオレの行動。もしかしたら嫌われちゃうかもとか、そんなことを考える暇もなく、口を開いたオレの声はいつもよりも低かった。
「なんで、ステラ抱いてんですか」
「なんでって、星がいねぇーから仕方なく」
……そんなこと、知ってるもん。
ソファーを背も凭れにし、パソコンを見つめていた雪夜さんの上に跨がり抱きついて。肌触りのいいニットから覗く首筋に噛みついたオレは、小さくついた痕を舐め上げる。
「ッ……」
雪夜さんから漏れた吐息と甘く香る匂いは、オレをわがままな悪魔へと変えていく。
ただ、オレだけを見てほしくて。
その手で触れるモノ全てに、嫉妬してしまうくらい雪夜さんがほしくて堪らないから。
兄ちゃんが、オレに教えたコトは一つだけ。
「雪夜が抱いていいのは、オレだけでしょ?」
……呼び捨てで、ユキの名を呼んでごらん。
ぬいぐるみですら、許せない。
雪夜さんの腕の中にいていいのは、オレだけなんだから。思うまま、雪夜さんに溺れていいのなら。
その身体ごと全部、オレにちょーだいよ。
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