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第420話
「……うわっ!?」
無言で強く抱き寄せられた身体は、痛いくらいに悦びを感じる。少しだけびっくりしたけれど、もっと溺れたくて、もっとほしくて。
オレは伸ばした手で、雪夜さんがかけている眼鏡を外し、微笑んでみせた。
「お前はホントに、可愛すぎんだよ」
「んっ…」
耳元で囁かれた声は、嬉しさと優しさをたっぷり含んだ艶のある雪夜さんの声で。一気に上がった体温が、ドキドキとオレの心臓の鼓動を早くさせる。
いつもと違うオレでも、モヤモヤとした思いを、欲の全てを受け止めてくれる雪夜さんがオレは大好き。
「星、愛してる。俺が抱きたい相手は、お前以外いねぇーから安心しろ」
「雪夜、さん」
ゆっくりと交わった視線は熱く、甘い刺激に変わっていく。淡い色の瞳はオレだけを捕らえて離さないから、雪夜さんを独り占めできるこの瞬間がオレを安心させるんだ。
この瞳に虜になっているのはいつだって、オレの方だから。たった一つ、愛の言葉に込められた想いを身体で受け止めれば、雪夜さんの抑えきれない衝動を感じることができる。
もう、言葉なんていらないんじゃないかと思えるくらいに、雪夜さんはオレを求めてくれる。
「ぁッ、はぁ…っ」
久しぶりに触れられる快感に、我慢ができないオレは熱い吐息を漏らして喘ぐ。まだキスすらしていないのに、囁かれ撫でられる耳への刺激は、身体中に熱を伝えてしまうけれど。
オレが自分で緩めたネクタイは、雪夜さんの手で解かれて。襟に引っ掛けられたネクタイはそのままに、シャツのボタンを一つ外しながら雪夜さんは俺に問い掛けてくる。
「悪戯仕掛けてといて、正解だったな。こんなに求めてくれるとは、正直思ってなかったけど……星、気持ちイイか?」
「んっ、気持ちぃ…ぁっ、もっと…」
右耳は雪夜さんの声に、左耳は雪夜さんの右手に。そして雪夜さんの左手は、オレの唇をなぞり甘い疼きを与えてくる。きゅっと掴んだ雪夜さんのセーターを握る片手に力が入ると、雪夜さんはオレの耳元で小さく笑っていた。
「もっとほしいなら、さっきみたいに俺を呼んでみろよ」
「雪夜っ、はぁ…ぅ」
唇をなぞっていた指が、スルリと口の中へ入ってくる。反射的に小さな抵抗をして舌で押し出してしまうけれど、オレの舌を絡めとるように動いていく雪夜さんの指は、徐々にオレの唾液で濡れてしまって。
「ソレ、すげぇー可愛い」
「ぁっ…ん、ゆきッ…はぁ…」
オレの口で遊ぶ手とは反対の手が周りの音を塞いで、くちゅっと湿った口内の音だけが頭の中に響いていく。
「ふぁ…ぅ、ん…らめっ…」
まるで深いキスでもされているみたいに、動き回る雪夜さんの指から逃げようとするけれど。それは逆効果で、どんどん気持ち良くなってしまうオレは淡い刺激に涙を零した。
頭がぼんやりするし、力も入らなくなって。
閉じることを忘れたオレの口は、薄っすらと開いたまま。
「星、ちゃんと咥えてろ」
耳への刺激は、オレの身体に熱を持たせて頭を溶かす。囁かれる声に、言葉に、全てを染められ、雪夜さんに溺れていくんだ。
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