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第428話
「んぅー、待って……」
「待たねぇーよ、寝るならベッドで寝ろっての」
サッカーも観終わり、ウトウトし始めた星を抱き上げベッドへと移動させる。まだ痛みが残る身体は星を眠りへ誘い、安らぎの時間を与えていくから。
「おやすみ、星くん」
星が深い眠りに入ったことを確認してから、俺はそっとその場を離れ、コーヒーを淹れていく。最近、急に肌寒くなってきたこともあり、カフェモカにでもしようかと路線変更をして。
温かな飲み物を手に入れた俺は、ソファーに腰掛けた。のんびりと安らぎを感じたいのは、俺も星同様なんだが。
当たり前のように手に取ろうとした煙草の上、いつも置いてあるハズのジッポ……が、ない。
あり得ないと思いつつ、俺は辺りを見回していく。
「……嘘だろ、何処にもねぇーじゃん」
思わず声に出た、独り言。
なるべく元の位置に戻す習慣をつけているのにも関わらず、あるべきものがないのは一体どういうことなのだろう。
……って俺がなくしたか、または星が何処かにやったかのどちらかしかねぇーんだけど。
俺の記憶の中では最後に煙草を吸ったあと、箱の上に戻したはずなのに。俺は仕方なく、火の点いてない煙草を咥えたまま、家の中にあるはずのジッポを探し始めた。
サッカーを観ているときは、まだ箱の上にいた
俺の私物。
そんなに大事な物なのかときかれたら、そうでもないあのジッポ。ただ、あの重さは気に入っているし、使い慣れた物だからか最近はソレ以外で煙草を吸うことがない。
本当に煙草を吸いたいだけなら、ガスコンロでも何でも火が点くもので吸うことは可能だが。なんとなくそこまでする気にはなれず、検討もなくただ探し回ってみたりした。
テーブルの上、下、ベッドサイドにある灰皿の横にも俺が探しているものはなく、スウェットのズボンや羽織っているパーカーのポケットにも入っていなくて溜め息が漏れる。
俺がガチャガチャと音を立てて探していても、全く起きない星は気持ちよさそうに眠ったまま寝返りを打っているし。
「……ったく、何処やったんだ」
探し回っているうちにせっかく淹れたカフェモカは冷めていき、煙草を吸う気も失せてきた俺は、眠っている星の横に転がり込んだ。
「ん、んぅ……」
俺が横にいるとも知らず、小さく吐息を漏らして布団とブランケットを奪い取る星に少しだけ腹が立つ。寒がりの俺から布団を奪うなんて、いい度胸してんじゃねぇーか……なんて、思いながらもツンツンと柔かな星の頬をつつき、俺は眠っている星に問いかけた。
「星くん、俺のジッポ何処やった?」
もちろん返ってくることのない寝息に苦笑いし、ブランケットを握る手とは反対の星の手を握った俺は、星のあまりの可愛さに頬の緩みを抑えきれない。
「あー、もう……マジで敵わねぇーわ」
探し求めていたジッポは、星の手の中にあったから。俺の持ち物で遊ぶのが大好きな仔猫は、大事そうに俺のジッポを握ったまま眠りに就いていた。
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