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第429話

「お前は、懐くとかなりの悪戯っ子だな」 「……んぁ?」 鎖骨に噛みつき遊んでいる星の髪を撫でながら、思ったことを呟いた俺に星は大きな瞳を向けてくる。 あのあと。 昼寝をして体力が回復した星にジッポを奪っていた理由を訊いたら、雪夜さんが使っている物だからオレが持っていたかったと、星くんは寝ぼけた頭で答えていて。 星にリクエストされたポトフを作り、夕飯と風呂を二人で済ませた俺たちは今、ベッドの上で戯れ合っている最中だ。 「オレ、雪夜さんにイタズラしてるつもりはないですよ?噛むのだって、雪夜さんがいつでも好きに噛んでいいってオレに言ってくれたからですし」 星くんの噛み癖を直すつもりがない俺は、仔猫に会うたびに新しい傷が増えていくけれど。 「まぁ、噛むのはな。でもお前それだけじゃねぇーだろ。髪に触れんもの、俺の物で勝手に遊ぶのも好きじゃねぇーか」 星を俺の膝の上に乗っけて、向き合って話す内容は成長した仔猫のことだ。 奪われたジッポも、俺のパーカーも、ブルーライトカットの眼鏡も……俺の私物で遊んでいる星を俺はこの部屋でよく見かける。 「だって、雪夜さんの髪はふわふわしてて気持ちいいし、雪夜さんの持ち物に触れてるだけで安心できるから……それでも、オレがイタズラするのはだめ?」 まっすぐに俺を見つめ、首を傾げて問う仔猫が可愛くて俺は星を抱きしめる。俺の物に触れることでコイツが安心できるなら、いくらでも触れていて構わない。 「ダメじゃねぇーよ、すげぇー嬉しい」 俺の肩の上に顎を乗せて、幸せそうにクスッと笑った星は小さな声で囁いてきた。 「……じゃあ、もっとイタズラしてもいいですか?」 「星くん、今度はナニするつもりだ?」 可愛い仔猫の悪戯に、俺が煽られなきゃいいんだが。そんな思いを込めて、俺が星に訊いた答えは小さな手と共に返ってくる。 「えいっ!……って、あれ?」 新たに悪戯を仕掛けようと俺の脇腹をこちょこちょとくすぐる星は、真剣な顔をしている。煽られるというよりかは、幸せを感じる星の行動に俺はニヤけていくものの。 ……俺、脇腹弱くねぇーんだよ。 「星くん、いくらくすぐっても俺は笑わねぇーよ?」 感度がいい星くんほど、俺は敏感じゃない。 くすぐりに弱いってのは、刺激に対しての感度によって決まるもの。感度が高いほど脳の混乱がひどくなって、くすぐったいと感じるそうだ。 そんな刺激に敏感な星は、鋭い感度を持ち合わせているためか、かなり感じやすくてヤってる時もすぐに泣いてしまうけれど。 「えー、ウソ。雪夜さん、人間じゃないです」 「星は弱いもんな、ココ」 「ん、ははっ……待っ、くすぐったいッ」 「おもしれーってか、その顔可愛すぎ」 笑いながら身を捩る星を見て、俺が笑ってしまう。どうやら悪戯好きなのは、俺も変わらないらしい。 くだらないことで笑い合って、俺らってバカだなと内心思いつつ、こんなことで笑い合えるなら、バカで何よりだとも思った。

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