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第430話
「星くん、お前いつから冬休み入る?」
日曜の夕方。
星を家まで送り届ける、1時間前のこと。
今後の予定を確認するために、星にそう訊いた俺はカフェモカが入ったマグカップを二つ持ち、ソファーに腰掛ける。
「えーと、確か22日の木曜日が終業式だったはずです。でも、その前にテストもあるし、また会える時間減っちゃいますね……」
ステラを抱きながら寂しそうに答えた星は、ココアベースのカフェモカが入ったマグカップに手を伸ばし、フゥーっと息を吹きかけている。その息で揺れるのはホイップクリームとチョコソースで、その下にいる液体たちに星の息は届いていない気がした。
「まぁ、それはしょうがねぇーな。テスト期間中、俺ん家で勉強しときゃいいのに……っつっても俺、ほぼ家にいねぇーけど」
「でしょうね。雪夜さん、いつでもバイトしてるから」
合鍵を持っている星は、好きなときに来てくれればいいのだが。真面目な星くんはテスト期間になると、俺に会うことよりテストを優先してしまう。
悪いことではない、むしろ学生なら当然のことだ。やるべきことはしっかりと行った上で、お互いの時間を楽しみたい気持ちは俺も変わらない。
……星くん送って帰ってきたら、俺もレポート終わらせねぇーと。
「基本、金土日は休みにしてんだけどな。金曜と日曜の夜は仕事入るコトもあるけど、お前といる時間をなるべく作りたいから平日はほぼバイト詰めだ」
星が一番だし、コイツが何より優先。
ただ、今のうちに大学の単位を取れるだけ取っておきたいし、それなりに金も稼いでおきたい。
「それって、オレだけのためですか?」
わしゃわしゃと隣にいる星の頭を撫で、微笑んだ俺を見る星は少しだけ不安そうに声を漏らす。
「もちろん星くんのためでもあるけど、どちらかというと俺のためだな。一秒でも長く、俺はお前と一緒にいてぇーから」
「雪夜さん……オレ、テスト頑張りますね。追試なく乗り越えられたら、その分時間がとれるので」
「ありがと、星くん」
こくりと小さく頷く星。
どれだけ一緒にいたくても、やるべきことはやらなきゃならない世の中だから。限られた時間のなかで、星に触れていられるこのときが愛おしい。
「コレ、とっても甘くて美味しいです」
飲み易い温度まで冷ましたカフェモカをちびちびと飲んでいく星は、ホッとした表情をしている。俺がそこに付け加えてやるのは、星のお気に入りのものだ。
寂しさも、不安も。
今だけは、感じなくて済むように。
カーディガンのポケットに忍ばせておいたチョコレートの包を剥がし、ソレを咥えて俺は星に口付けた。
「んっ…ぁ」
甘さの中に広がるカカオの香りは、このチョコレート特有のもの。離れるときの切なさに少し似ているその味が、俺たちのあいだでゆっくりと溶けていき交わっていく。
「美味い?」
名残惜しく唇を離し、潤んだ瞳を見つめてそう尋ねた俺に、星は頬を赤く染めながら俺が大好きな笑顔で微笑んでくれた。
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