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第431話
「あ、光ちゃんッ!?」
「ちげぇーよ」
星がテスト期間に入った、11月の終わり。
俺はあいかわらず光にお熱な康介を連れ、輸入食品の店に来ているのだが。
「金髪の女見ただけで、あの悪魔だって認識するお前の頭どーかしてんぞ」
さほど広くはない店内にいた赤の他人の女を見て、光だと思えるコイツは相当やばいと思う。そんな康介に呆れた俺がここに来店した目的の物を手に取ると、康介は俺を見てニヤリと笑う。
「仔猫ちゃんのために、わざわざチョコ買いに来る白石だって、どーかしてると思うぜ?」
前回の泊まりの際、口移しで渡してやったチョコレート。星が好きなチョコは元々、ビターのほうを俺が気に入って購入していた物だ。
「うっせぇーな、お前と一緒にすんじゃねぇー。ミルクのコレと、金の缶に入ったココアは仔猫のお気に入りなんだよ」
俺がたまに飲むスティックの物と同じココアパウダーに、砂糖とミルクを足して作るのが星くんだけのココアの味。冬になり、最近ではカフェモカもお気に入りの仔猫さん用に、俺はチョコレートソースも買い足した。
アイツの好きな物はストックがなくなる前に、揃えておいてやるのが基本だ。
「甘いの嫌いな白石が、クッソ甘いな」
ボソリと呟かれた康介の言葉は、俺の耳にしっかり届いている。星に甘い自覚はあるが、康介に言われると腹が立つのはどうしてだろう。
「こーすーけクン、なんか言った?」
「ッ……耳元で喋んな!エロい声出すなっ!!」
甘いと言われた康介に星が好きな声で囁いた俺は、康介の反応を見て笑ってやる。
「ナニ感じてんだよ、アホじゃねぇーの」
「感じてねぇよッ!白石がエロすぎるだけじゃん!」
囁かれた片耳を手で押さえながら俺に文句を言う康介だが、コイツは何しに俺についてきたんだ。
「なんもエロくねぇーよ。それよりお前はナニ買うんだ、料理しねぇーお前が買う物なんて、この店にねぇーだろ」
食品が多いこの店に、コイツが買うような物なんてない。もしあるとするならば、惣菜かデザートくらいだ。しかし、真顔で俺を見た康介は、スタスタと歩いてアルコール類が並ぶ列へと向かい、一本の赤ワインを指差した。
「ある、コレ」
「ビールしか飲まねぇーお前が、ワイン?」
酒に強いワケでもなく、缶ビール一缶で充分酔える康介がワインなんて……コイツ、似合わないにもほどがある。
「この間解禁したから、一度飲んでみたくてさ。やっぱり、白石についてきて正解だった。もうコンビニにも売ってなかったから、このまま今年も飲めず終いかと思ったけど」
「この間って、何週か前の話じゃねぇーか。どーせ飲むなら、解禁日に飲めよ」
「解禁日は、金欠だったんだッ!」
康介が指差したのは、フランスのある地名が名付けられている有名なワイン。その中でもいくつか種類があるのだが、一番安い物を買おうとしているところがコイツらしいと思った。
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