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第432話
康介の胸に大事そうに抱えられた、一本のワイン。店を変え、居酒屋に来た俺は、光への想いを語る康介の話を感情なく聞いている。
「本当はこのワイン、光ちゃんと一緒に飲んでみてぇんだけど……なぁ、白石?」
俺は運転、コイツは歩き。
飲んでいるのは康介のみで、もちろんお代はコイツ持ち。ガヤガヤと煩い店内は俺好みの店ではないが、並ぶ料理の味はそれなりだから良しとしよう。
「俺は、アイツと飲みたくねぇーからな。言っとくけど、あの悪魔は俺より酒強いから。ありゃもうザルじゃなくてワクだぜ、網目すらついてねぇーよ」
「光ちゃんって、あの容姿でそんなに飲むのかっ!?」
「いや、容姿関係ねぇーだろ。お前がアイツに合わせて飲んだら、急性アルコール中毒で病院送りだ」
コイツが光と二人で飲んだら、緊張しっぱなしで、その上カッコつけるために光に合わせて飲むに違いない。今ですら半分も飲んでいないビールで酔っているし、バカの行く末は目に見えている。
「マジかよぉ、光ちゃーんっ!」
ビールのジョッキを持ったまま、机に項垂れた康介は情けない声で光の名を呼んでいて。俺から漏れた溜め息は、周りの騒がしい音にかき消された。
「お前はさ、あの悪魔のナニがいいワケ?」
一目惚れと片想いを拗らせた康介にそう尋ねた俺は、少し焦げ目のついた美味そうな焼き鳥に手を伸ばす。康介からの返事は期待してないが、コイツはきっと俺の予想を裏切らない。
「すっげぇキレイな笑顔で、笑うとこ」
「そんだけ?」
「うん」
「さすがバカ」
金髪悪魔の完璧な笑顔は、優がいるからこそ保たれているものだと言ってやりたい。演じられた王子様を支えられるのは、あの有能な執事だけだ。
光を待つ優に付き合い、色々と話し込んだあの日。俺が友人二人に対し、感じたことは大きかった。あの二人は俺と星より付き合いが長い分、俺が思っていた以上にお互いのことを誰よりも理解し合っている。
年月を掛けて積み重ねてきた、確かな信頼の上で成立している、あのアホで異常な関係性は、これから先も変わることはないだろうと思うから。
バカな康介といると飽きることはないし、なんだかんだで構ってしまう相手ではあるが……叶わぬ恋をしているコイツを見ていると、さっさとフラれて次の恋をしてほしいと願ってしまう。
「白石ぃー、光ちゃんの連絡先教えてくれよぉー、知ってんだろぉ?」
「面倒だから教えねぇーって、何度も言ってんだろ。そんなに知りたきゃ、自分で訊いてこいよ」
「いらねぇ女の連絡先は、すぐ教えてくれるクセにッ!なんで、光ちゃんは駄目なんだよッ!?」
「なんでって、面倒以外の理由なんてあるワケねぇーだろ。お前さ、自分が惚れた相手の性別ホントに分かってんのか?」
「分かってるつもり……ではいるけど」
ただ好きなだけじゃ越えられない壁があることを、コイツはまだ分かってない。俺も分かってなかったが、康介の好きと俺の好きには違いがありすぎた。
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