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第434話

「ふーん、じゃあコウちゃんは俺のこと抱く気でいたんだ。可愛いね、この俺が抱かれるわけないのに」 星のテストが終わるまでの期間。 大学とバイトで過ぎていく日々のあいだに、光からの呼び出しで優の家まで来ている俺は、キッチンに立ちながら康介の話をしている。 「お前のコトはキッパリ諦めて、その辺の女抱くってよ。でもお友達にはなりてぇーから、連絡先を教えてほしいんだとさ」 居酒屋での飲みのあと、ワインボトルを抱いたまま康介は酔い潰れた。その翌日、康介は二日酔いに悩まされながらも光のことは諦めたと俺に告げてきたけれど。 俺とはタイプの違う光の周りには、それなりに女友達も多くいる。それを狙っていきたいから光の連絡先を知りたいと、バカ野郎がバカなことを言ってきた。 「コウちゃんかぁ……可愛いけど、いらないかな。気が向いたら教えてあげるって、彼には伝えといて」 「珍しいな、王子様が拒むなんて。それほど、そのコウスケ君とやらは、関わりづらいタイプなのか?」 ソファーに座り、光の髪を撫でながら、俺にそう訊いた優は穏やかな表情をしている。二人だけの時間を楽しむのなら分かるが、何故毎度のように俺も付き合わなきゃならないのだろうか。 「関わりづらいっつーより、バカでうるせぇーだけ。それよりできたぞ……おら、執事手伝え」 「雪夜の執事になった覚えはないんだが。光、少し離してくれないか?……ん、ありがとう王子様」 「イチャついてねぇーで、早く準備しろよ……お前らが鍋食いてぇーってうっせぇーから、わざわざここまで来て作ってやったってのに」 「弱味を握られた雪夜は、王子様の奴隷だな」 「弱味ってナニかなぁ?俺はユキちゃんに、来ないならせいとクリスマスデートさせてあげないよって言っただけだよ?」 せっせと人数分の食器を運ぶ優と、ソファーで寛ぐままの光。俺はそんな二人に小さな溜め息を吐いて、アツアツの鍋を持ちテーブルの上に置いた。 「星君のことになると、雪夜は弱い。光が兄だと苦労が絶えないな、雪夜」 「それな、この悪魔に星くん取られたら最後だ」 「そんな大事なせいの週末の泊まりの許可を、誰が取ってると思ってるの。うちの親は厳しくはないけど、甘くもないんだから」 「ソレは素直に感謝してっから、お前の言うコト聞いてやってんだろ。ほらよ、ご希望のみぞれ鍋だ」 土鍋の蓋を開ければ、立ち上がる蒸気から出汁の香りがしてそれなりに食欲が湧く。テーブルを囲み、俺と優は光を挟んで席についた。本当はここに星がいたら、ソレが一番いいのだけれど。 「うっわぁー、とっても美味しそうだねっ!最初ビールで、そのあとに日本酒いこーか!」 「優は?お前、今日も飲めねぇーの?」 「許可が下りていないからな、雪夜は飲んでいくといい。ベッドは貸せないが、リビングのソファーなら貸してやる。たまには王子様に、付き合ってやってくれ」

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