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第435話
「付き合うのは構わねぇーけど、少し寝て酔い冷めたら適当に帰るからな。俺、明日も昼からバイトだし」
鍋に合う日本酒を嗜むのは悪くないが、俺は明日もバイトがある。そんな俺の意思を伝えてると、優はゆっくりと頷いた。
「せいもテスト期間中だしね。追試なしでユキちゃんと一緒にいられる時間作るために、今頃必死で勉強してると思う」
「テスト期間、か。俺たちも、よく図書館行って勉強していたな……それが今じゃ、こんなだ」
一人だけウーロン茶を飲んでいる優は、馬鹿にした様子で俺と光を見て笑う。
「お前がガリ勉だっただけ、俺そんな勉強した覚えねぇーし。ランんとこで酒も飲んでたし、煙草は中坊んときからだから、今となんも変わらねぇーよ」
「雪夜に関していうなら、今の方が真面目か」
「そうかも。あ、優ぅー、白菜もっと入れて?それよりさぁー、ユキちゃんはせいにあげるクリスマスプレゼントって、もう決めてあるの?」
「なんも決まってねぇー、アイツ欲しい物とか全然言わねぇーし。誕生日も、俺があげたい物を贈ったから」
「あのアンクレット、いいよね!せいに良く似合ってるし、質もいいからとってもオシャレ。ユキちゃん、どこで買ったの?」
クリスマスのプレゼントから誕生日プレゼントへと話が移り、星のアンクレットについて語り出す光。
「あー、商店街近くのジュエリーショップだな。普段、滅多に行くことねぇーけど」
昔、兄貴に連れられよく来店していたジュエリーショップは、親会社が貴金属素材を専門に取り扱う店だ。そのため、アクセサリーとして加工された商品でも質が落ちることはない。
中途半端な物を渡すくらいなら、俺の見立てであげたい物を渡したかっただけなんだが。
「ユキちゃん、ちゃっかりしてる。でも、そういうところも抜け目ないのってユキちゃんらしいかも。ユキの飼い猫の証拠みたいで可愛く揺れるんだよ、あのアンクレット」
「元々、そのつもりで左足なのだろう?雪夜、お前は本当に分かりやすいヤツだ」
「うっせぇーよ」
このあと、根掘り葉掘りアンクレットのこと尋ねられた俺は、逃げるように一度席を立ちベランダへと出て行った。
この場所で、隠れて星とキスした日のことが酷く懐かしく感じる。あのときとは異なり一人で身を縮める俺は、寒さに弱いカラダを恨み身を縮めた。
それでも。
ゆったりと時間を使い一服して、部屋とへ戻った俺は、その温かさをありがたく思いつつ席につき胡座をかいた。テーブルにある腕を手に取り、鍋の中の具を適当に放り込んで。
「お前らさ、クリスマスってどうやって過ごしてんだ?」
俺がそう問い掛けると、ニヤリと笑った光は、水のようにビールを流し込んでから口を開く。
「どうって?優にサンタのコスさせて、俺が一人で爆笑するのが、毎年のクリスマスの過ごし方だよ」
火が通り、甘さが増した大根おろしに絡む野菜が地味に美味い。そこに足されるアルコールは、ほどよく身体を温めてくれる。ほろ酔いにはまだ遠いものの、くだけた空気感の中で話すのは悪くないけれど。
「冗談かどうか判断すんのに、すげぇー微妙なラインで話してんじゃねぇーぞ。優、マジ?」
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