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第437話

ねみぃー、だりぃー。 そう思っても、バイトに行かなきゃならないのが辛い。光に付き合い散々飲まされた後、二人で寝室に消えていく光と優の後ろ姿を見送りながら片付けをして。ソファーで仮眠を取った俺はまだ暗い空の下で独り、車を走らせている。 優の家から自宅へと帰る車内に流れているのは、星がよく聴いている曲で。アイツと一緒にいるとき、星がたまに口ずさんでいるメロディーが頭から離れず、いつの間にか俺も同じ曲を聴くようになっているけれど。 星くんがこの曲の意味を理解して歌っているのかは、今のところ不明だ。単純に曲調が気に入ってるだけなら、それでもいいんだけど……ってか、アイツが欲しい物は結局なんなんだよ。 この曲の説明を聴く限りでは、やっぱりプレゼントは大切らしい。花でもいいし、でも手紙が一番嬉しいってそんなもんウソだろ。ディナーのエスコートはカッコよくしてくれって、アホか。 んなもん最初から完璧に出来たら、誰も苦労なんてしねぇーよ。どんな星くんでも笑って許してやるし、もちろん大切にするけれど。今の俺には、アイツだけの特別な取扱説明書が必要だと思った。 誕生日に、クリスマス。 プレゼントを贈りたいと思えることは、それだけ俺にとって星が大事な存在だからだ。けれど、贈り慣れていない俺には悩む部分も多い。 信号待ちになり、咥えた煙草に火を点つけて。 俺なら何が欲しいか考えてみたが、俺が欲しい物なんて特になく、アイツと過ごせる時間が唯一、今の俺が欲しいものだ。 星がもし、俺と同じ考えでいるとするなら。 欲しい物なんて特にないんじゃないかと、思ってしまうけれど。それでも何かしてやりたい気持ちはあって、リピートされたままの曲を聴き、色々と考えながら運転して家まで向かって。 車から降りた俺は、カラダが感じる冬の寒さに思わず身震いした。家に着いたら真っ先にカフェモカを淹れようと決め、駐車場から家までの数十歩を早足で歩き帰宅する。 鍵を開けて部屋に入り、自分だけの家なのにアイツがいないこの空間が何処か抜け殻のように感じて溜め息が漏れた。そのままベッドにダイブしたい気持ちを堪え、俺はボーっとした頭で溶かしたココアにコーヒーを注ぎ淹れていく。 温かみを増したマグを手に持ち、ソファーに腰掛け脚を組んで。冷えたカラダを慰めるように、俺はカフェモカを口にする。 カーテンの隙間から見える空の明かりが少しずつ確かなものになっていき、そろそろ朝だと思った。まだ夢の中にいる仔猫の代わりに、俺は冷たいステラを抱いて孤独感を紛らわす。 「……今だけは、許して」 そう呟いた言葉が仔猫に届くことはないが、俺が抱きたい相手は星だけだから。可愛い恋人にささやかな謝罪をし、強く抱き締めたステラはへにゃりと形を変えてしまう。 出来ることなら、小さなアイツのカラダを抱きしめ眠りに就きたい。肌寒く感じる冬の朝だって、アイツがいるだけで温かく心地いいものに変わるから。

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