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第438話

『やーちゃん、生きてる?』 「死んでる」 本格的に寒さが襲ってきた12月、寒がりには辛い季節が到来した。相変わらず星とは会う時間が取れず、俺は今日もアイツがいない部屋で独り煙草を咥えている。 通話の相手は飛鳥で、もちろん掛けたのは俺じゃなく兄貴から掛かってきた電話に嫌々出た俺は、日々の疲れが溜まったままの頭で死んでると答えた。 『それでも、電話出るとこは褒めてやるよ』 「……出なかったら出なかったで、兄貴うるせぇーだろ」 俺の隣で何も言わずにいるステラの頭をくしゃくしゃと撫で、何の用があるのかと思いつつ飛鳥の言葉を待つ。 『可愛いやーちゃんが心配で、連絡してやったんだ。ありがたく思えよ、クソガキ』 「そりゃ、どーも。今日は女とヤッてねぇーんだな、兄貴にしては珍しいコトもあるもんだ」 『なんでお前に電話する度に、女抱かなきゃなんねぇんだよ。俺もそこまで暇じゃねぇ』 「いつも兄貴から連絡来るとき、八割方は聞きたくもない声聞こえてくんだけど」 『あ?ソレは啼く女が悪い』 「いや、啼かせる兄貴がわりぃーんだろ……ってか、んなもんはどーでもいいけど、用件ナニ?」 電話越しの飛鳥の声がいつもより静かに聞こえてくることに、思わず俺からつっこんでしまったけれど。俺が心配で連絡したなんてのは、ただの前置きだろう。 飛鳥のことだから、またバイト休んででも帰ってこいとか吐かしてくんじゃねぇーかなって、なんとなくそう俺が思ったときだった。 『お前さ、年末年始帰ってこいよ?』 いつもの強い命令口調ではなく、穏やかな声で言われた兄貴の言葉。それにしても、嫌な予感はどうしてこうも的中するんだろう。 「はぁ?年末年始とか、ショップのバイトでそれどころじゃねぇーよ。帰れたとしても、年明けてちょっとしてからじゃねぇーと無理」 福袋なりなんなり、盆休みだけに限らず年末年始だって稼ぎ時になるため、その時期は俺も康介も休みがない。バイト命なワケではないが、稼げるうちに稼いでおきたい気持ちはある。 『それなら、帰ってこれねぇわけじゃねぇんだな。今回、お前に用があるのは俺じゃねぇ……なーちゃんだ』 「華?俺はアイツに用なんかねぇー」 面倒事は、なるべく避けて通りたいのだが。 そうも言っていられないような雰囲気が、スマホ越しから感じ取れて溜め息が漏れる。 『まぁ、そうだろうけどな。年に一回くらいは、顔見せてやれ。あのクソアマ、冬もやーちゃんに会えなかったら、お前のこと探し出してぶっ殺すって吠えてんぞ』 「あぁ……殺れるもんならやってみやがれ、クソビッチっつったらマジで殺られんだろうな」 『だから、そうなる前にお前に連絡してやったんだ。愛する可愛い弟が、妹に殺られるとか勘弁してくれ』 この兄に、あの妹。 あいだに挟まれた自分の立場が、あまりにも貧弱で辛い。それを傍観して笑っている遊馬もいるのだから、相変わらずのクソ兄妹だと思った。

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