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第439話
「ちっせぇー頃、俺が立てなくなるまで容赦なく殴ってきたヤツが言うセリフじゃねぇーだろ」
『バレちゃしょうがねぇ……なーちゃんに殺られるくらいなら俺にヤらせろよ、やーちゃん?』
「うっせぇー、変態」
やけに色気のある声でそう言った飛鳥は、電話越しで笑っている。やる違いの飛鳥の雰囲気にのまれる前に、俺は兄貴に吐き捨てた。
『まぁ、嫌々でもなーちゃんに会って、また上手く1年やり過ごすか……または、会わずに一生付きまとわれるかだ。やーちゃん、お前はどうする?』
好きとか嫌いとかは、正直もうどうでもいい。
星に諦めた夢のことを話した今、過ぎ去ったことを気にしている余裕なんて俺にはないからだ。ただ今回は、マジで兄貴が心配して俺に連絡をよこすほど、華の怒りが俺に向いているらしい。
俺が大学生になり一人暮らしを始めてから、兄妹の中で華だけが知らない俺の連絡先と居場所。兄貴二人にも教えるつもりはなかったが、車の件がある以上、渋々連絡を取っている。
兄妹で、婚姻関係は結べない。
それを頭では分かっているが、17歳になった今でも認めようとしない華。自分の考えが絶対で、人の話を聞き入れない妹。
あの華に、一生付きまとわれるなんて御免だ。
「……ったく、しょうがねぇーな。年明けてから帰るコトにすっから、華にもそう伝えといて」
『ん、イイ子。また詳しい日時分かったら教えてくれ、俺もまーちゃんもその日は空けとくようにすっから。じゃあな、その日までは死ぬなよ』
返事をする前に、一方的に切られた電話。
俺が華と二人きりになるのを避けるために、わざわざ予定を空けておくと言ってくれた兄貴。
こういうときは、素直に感謝してやるのに。
感謝の言葉を述べる前に向こうから切ったということは、兄貴からしたら当たり前の気遣いなのだろうと思った。
あの飛鳥や遊馬が、頭を悩ませるほどの存在。
クソ親に甘やかされ育った妹の華は、今じゃ俺の天敵のようなものだ。こんな時期から華に会わなきゃならない予定が入るなんて、気が重すぎる。
今すぐにでも、癒しがほしい。
触れられないのならせめて声だけでもと思い、時間を確認した俺から溜め息が漏れていく。この時間なら、愛する仔猫はとっくに夢の中だ。
このままの予定でいくと、次アイツに会える日はクリスマス前になる。基本毎日LINEでやり取りはしているけれど、それだけじゃ足りない。今まで誰にも感じてこなかった寂しさは、アイツだけにしか癒すことが出来ないものだから。
知らぬ間に空になった煙草の箱を握り潰し、ダストボックスへと投げ捨てて。俺が新しく封をきった煙草は、今日でもう二箱目だった。明らかに吸いすぎていることを自覚し、手を止めた俺はベッドに身を沈める。
襲ってくる睡魔は一瞬で消え、数時間後にはまた目覚めてしまうことを覚悟しつつ、今だけは意識を手放すように俺は目を閉じ眠りに就いた。
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