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第440話
【星side】
雪夜さんに会いたい気持ちを、ぐっと堪えて。
必死にテスト勉強したオレは、手元にあるテスト結果が書いてあるプリントをなかなか見ることができずにいた。
騒がしい教室では、さまざまな声が聞こえてくるけれど。オレが通う高校は、全科目の結果を先に通知されたあとで、各教科ごとにテストの返却が始まる。少しずつ知るのも嫌だけど、全ての結果を一度に知るのも嫌だ。
特に専門科目は筆記だけでなく、実習のテストもあったから、オレの中では不安要素が残っているままで。テスト課題の人参シャトー切りにはかなり苦戦したし、出来上がりも自分が納得できる物ではなかったことが悔やまれる。
それでも、結果を見ないことには先に進めなくて。でもやっぱり躊躇っているあいだにも時間だけが過ぎていく。
「青月くん、どうだった?」
「あ……うん、まだ見てない」
西野君に声を掛けられ、伏せてあるプリントを恐る恐る表に返したオレは、やっぱり怖くて目を瞑る。
オレがここまで緊張して結果を見ようとしないのには、オレの勝手な理由があるからなんだ。今回もし追試がなかったら、ダメ元覚悟で雪夜さんにクリスマスデートのお誘いをするってオレは決めているから。
追試だったらどうしようって、マイナスな思考のままゆっくりと目を開けたオレは、全ての結果を見て安堵した。頑張って良かったと、ひと安心したオレとは違い、西野君は机に額を当てたままブツブツと念仏を唱えている。
「僕、専門科目のあのくそジジィに騙された。食品衛生学、追試決定だ……あと2点足りないくらい大目に見ろよぉー、引っ掛け問題ばっかり出しやがって、あのジジィ……ぶっ潰すっ!」
合格ラインが、80点以上の専門科目。
オレが苦戦した教科も西野君が落としたのと一緒だから、気持ちは分からなくもないけれど。落ち込む西野君から漏れる言葉は、普段の可愛らしい西野君からは想像できない言葉ばかりで。
「西野君、言葉が……」
慰めてあげるより先に、西野君の豹変ぶりに驚いたオレは引き攣った笑顔で西野君を見る。
「あ、ごめんね。でもさぁ、もう本当ナニアレ……1問2点で50問でしょ?しかも全部マルバツ問題とかふざけてる。確率50パーセントで簡単だから、勉強しなくてもいいとか吐かしやがって……あ、青月くんは結果見た?」
こんなにイライラしてる西野君に、オレは追試なかったよって言えるほど、オレの心臓は丈夫じゃない。でも、嘘をつくわけにもいかなくて、オレは何も言えず結果が書かれたプリントを西野君に手渡した。
「うっそ、青月くん凄いじゃんっ!」
コロコロと表情を変えて笑う西野君に、オレの心はついていけない。追試じゃなかったことはとっても嬉しいのに、オレは西野君の前じゃ素直に喜べなくて。
嬉しさと同時に襲ってきた新たな緊張感を隠しながら、オレは西野君の愚痴を聞く役に徹していた。
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