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第441話

「西野が赤点とか、専門ヤバいな。アイツ勉強熱心じゃねぇの?」 「んー、そのはずなんだけど。でも今回のテスト、本当に難しかったんだよ」 久しぶりに、弘樹と並んで帰る放課後。 西野君の愚痴をたっぷり聞いたあとだからか、気を遣わず話せる弘樹との会話は軽やかに進んでいく。 「まぁ、セイが追試ねぇならいいじゃん。俺はいつも通りの結果で、いつも通り追試ばっかだぜ?」 「弘樹、少しは勉強したらどうなの?オレはね、今回目標があったから頑張ったんだもん」 「目標?なにそれ?」 誰にも言ってなかった、秘密の目標。 頑張ったご褒美になるかどうかは雪夜さん次第だけれど、オレは雪夜さんと二人だけの時間が欲しいから。 「弘樹になら、教えてもいいけど……でもその前に、オレが何言っても絶対に笑わないって約束してくれる?」 いくら信頼してる弘樹でも、この話をするのは恥ずかしくて。また少し開いてしまった身長差を感じながら、オレは弘樹に問いかけた。 「もちろん、笑わない」 制服のポケットに両手を突っ込んで、はにかんでオレを見る弘樹の目は優しさで溢れている。憧れの人にちょっとだけ似てきた弘樹の雰囲気に、オレは頬を染め恥じらいつつも、小さな声で思いを伝えていく。 「あのね……今回のテストで追試がなかったら、オレから雪夜さんをデートに誘うって目標立てたんだ。もうすぐ、クリスマスでしょ?だから……その、オレから誘ってもいいかなぁって」 この歳だと、さすがにもう信じることはできないサンタさんの存在。小さな願いを叶えてくれるサンタさんがいないのなら、自分から掴みにいかなきゃ欲しいものは手に入らない。 単純に、雪夜さんと少しでも長い時間、オレは一緒にいたいだけなんだけれど。クリスマスなら尚更、オレは雪夜さんと過ごしてみたくて。普通に誘えたらいいのに、オレはこんな言い訳じみた目標を立てていた。 「……なるほどなぁ。セイも一応男だし、それなりに男の子したいわけだ?」 「男の子っていうか……オレ、いつも雪夜さんに誘ってもらってばっかりだから。受け身すぎてもダメなのかなぁって思って……でもさ、雪夜さん忙しい人だし、誘い方とかよく分かんなくて」 目標を立てたから、意欲的にテストに取り組むことはできたし、結果も満足できるものだったけれど。新たな問題がすぐにやってきて、オレは俯いてしまうんだ。 「ストレートに、クリスマスデートしませんか?で、いいんじゃね?」 「でも、もし断られたらどうしよう」 「あの人が断るわけねぇじゃん。それよりさ、セイからデートに誘うってことは、セイちゃんがあの人エスコートすんの?」 「……あ」 「目標立てはいいけど、テスト勉強に必死でなーんにも考えてないんだろ?」 立ち止まった、家の前。 弘樹の言葉にフリーズしたオレは、たぶんすごく間抜けな顔をして、固まっているんだろうなって思った。

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