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第442話
「弘樹ぃーっ、どーしよっ!?」
一定時間止まっていたオレが急に慌てだしても、弘樹は落ち着いていて。ニカッと笑った弘樹は、オレの頭へ伸ばしかけた手を止め呟いた。
「……いくらもう恋心がないからって、セイに触れんのは良くないな。俺、あの人に殺されたくねぇし」
「そんなことより、オレを助けてよ」
オレが今、頼れる相手は弘樹しかいない。
雪夜さんになんて言ったらいいのか分からないし、何も決まってない予定のまま誘うことなんてできないし。追試なしで浮かれた気持ちはすぐに消えてしまい、新たに芽生えた嬉しい悩みが頭の中を支配していく。
そんな重たい頭を傾け、シュンと眉を下げながら弘樹を見上げたオレは、視界に入った夕日が眩しくて片目を閉じた。
「セイ、その顔で助けてはマズイかも」
そんなおかしな顔してるのかなって、俯いたオレに弘樹は小さく溜め息を吐き、声を掛けてくる。
「むやみやたらと色気振りまかないで、セイちゃん。俺は色々分かってるからいいけど、そんな表情で助けてなんて言うもんじゃない。ソレ、知らねぇヤツの前でやったら、セイは確実にあの人からお仕置きされんぞ?」
「お仕置きって、言われても……オレに色気なんてないし、オレは弘樹に助けてほしいだけなんだけど」
たぶん、オレは色気よりも食い気のほうが強いから。よく分からない色気の話よりも、オレはとにかくクリスマスのことで頭がいっぱいなんだ。
「あー……なんつーか、無自覚過ぎても困りもんだな。あの人、これから先も苦労するわ」
「ブツブツ言ってないで、いい方法教えてっ!」
ポリポリと頭をかいてゴニョゴニョ言ってる弘樹に、オレはだんだん嫌気が差してくる。イライラする気持ちを弘樹にぶつけるように、オレは持っていた鞄を弘樹のお腹に投げつけた。
「おっと、危ねぇ。セーイ、投げるなら腹じゃなくて胸に投げろよ?受け取りづらいって、いつも言ってんじゃん」
「んー、やっぱり弘樹は変わらないね」
オレがイラついて弘樹に八つ当たりしても、弘樹はこうして笑って受け止めてくれる。小さな頃からのちょっとしたやり取りが、変わらずにできるのは相手が弘樹だからだ。
「当たり前、何年一緒にいると思ってんだよ?セイの行動は、なんとなく分かる……まぁ、今回の目標は分かんなかったけどな」
「ねぇ、弘樹……どーしよ」
変わらないついでに、弘樹に助けを求めるオレと、腕を組んで考え込む弘樹。
「じゃあさ、俺の追試対策一緒にやってくれよ?セイが助けてくれるなら、俺もセイと一緒にあの人とのデートのことを考えるからさ」
「うん、わかった。それなら、明日の夕方からオレん家に泊まりで勉強してね?」
「おし、交渉成立っ!」
雪夜さんもオレも、お互いに忙しい今の時期は週末に会うことすら控えているから。たっぷり時間が取れる日に、オレは弘樹と泊りがけでお互い助け合うための約束を交わした。
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