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第443話
「なぁ、聞いてる?セイ、セイーっ、セーイちゃーん?」
「先に勉強して」
「ハイ」
雪夜さんに会うことができない週末。
オレの部屋で追試対策用のプリントを見つめたまま、動くことがない弘樹の手。昔から勉強嫌いな弘樹には、地獄の時間だろうけれど。
「それ終わったら、次こっちやって。それで、そのあとにコレと……あとコレも」
「今日、すげぇスパルタじゃん」
「だって、先に弘樹の課題終わらせなきゃ、ゆっくり雪夜さんの話なんてできないでしょ?分からない問題があったら言って」
オレの目的は、勉強じゃない。
でも、弘樹を助けてあげるって約束したからには甘やかさずに付き合ってあげなきゃ、弘樹はいつまでもお喋りに夢中で勉強しようとしないから。
「こんなもん、全部わかんねぇよ」
サッカーボールの形をした小さな消しゴムを指で転がしながら、始めからやる気のない弘樹をオレは睨みつける。時間はたっぷりあるけれど、今の弘樹に遊ぶ時間なんてものはない。
全部わからないんじゃなくて、わかろうとしないだけの弘樹は、昔からやればできる子なのに。
「一からコツコツやっていけば理解できるから、全部わからないなんてのはやる気がないだけ。問題集見てごらんよ?例文から全部載ってるでしょ?」
「……マジじゃん」
「やってみて、それでもわからない問題がある時のみ言って。オレ、今忙しいの」
弘樹に勉強させるには、スパルタでいくのが一番の近道で。オレが全部教えなくても厳しく言ってあげれば、そのうち勝手に終わらせてくれることをオレは知っているから。
忙しいと付け加えて、弘樹の行動を見張りつつ、オレは弘樹に持ってきてもらったサッカー漫画を読んで時間を潰していた。
「セイ、面白い?」
「うん」
サッカーのことはまだ詳しく分からないけれど、それでも引き込まれるストーリーと、個性的なキャラたちが奮闘する姿は読んでいて心を惹かれるものがある。
特に、サッカーが大好きで純粋にボールを追いかける主人公の姿は、周りの人さえも動かしていくから。
雪夜さんの笑顔も、オレの心を動かしてくれたなって……そんなことを思っていたオレと、テーブルに肘をついた弘樹。
「そっか、あの人も漫画とか読むんだなぁ……見た目からすると、全然イメージないけど」
「サッカー漫画はクローゼットの中に、たくさん入ってる。あとは、海外リーグの雑誌とか……雪夜さんの部屋は基本、サッカー関連の物で溢れてるから」
「うっそ、俺と一緒じゃんっ!!」
憧れの人と一緒で嬉しそうな弘樹だけど、一緒なのはサッカーが好きなことと、持っている漫画だけで弘樹と雪夜さんは全然違うのに。
「雪夜さんのお家は弘樹の部屋より数百倍、綺麗でオシャレな部屋だけどね。ほら、お口はいいから手と頭を動かして?」
「はいはい、わかりましたよぉー」
「ハイは一回」
「うぃー」
緩んだ顔をして返事をした弘樹は、やっぱり雪夜さんが好きなんだなって思った。
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