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第447話
「弘樹、雪夜さんが代わってって」
雪夜さんに言われた通りにオレが弘樹にスマホを手渡すと、弘樹の顔色が段々悪くなっていく。
「あ、お疲れッス……はい、いやぁ……はい、すみません……はぁっ?!それだけは……マジで勘弁してくださいッ!!」
雪夜さんに何を言われているのかは分からないけれど、スマホで話しながら見えない雪夜さん相手にペコペコと頭を下げる弘樹は、たまに目にするサラリーマンのようで。
「ひぃ君、ユキちゃんに怒られてるぅー、ユキちゃんからは見えないのに、こんなに頭下げちゃって可愛い」
そんな弘樹の姿を笑う兄ちゃんへと、弘樹から渡されたスマホを耳にあて、今度は兄ちゃんが話し出す。
そのあいだに、弘樹は自分のスマホを手に取ると何かを調べ始めていた。
「んー?ううん、今回俺は何もしてないよ……うん、だってひぃ君バカだからしょうがないじゃん……え、やだ。クリスマスのせいのコーデ、俺がしていいなら代わってあげる」
雪夜さんに怒られ、落ち込んだままスマホをいじる弘樹と、楽しそうに笑う兄ちゃん。オレはそんな二人を見比べながら、早く雪夜さんの声が聞けないかなって、クッションを抱いて待っていた。
「はぁッ!!クッソ高い、なんだこれ……レベチだわ、白石さん」
「ひぃ君、うるさいんだけど」
「いや、だって!値段おかしいからッ、王子、10万どころの騒ぎじゃねぇよっ!!」
「高校生って、可愛いね。ううん、こっちの話……そう、ブランド物はお値段張るからねぇ……いや、そんなこと言ったらひぃ君気絶するよ?」
スマホを覗き込み、驚愕している弘樹。
そんな弘樹を笑い、雪夜さんと楽しそうに話している兄ちゃん。おそらく、雪夜さんのジッポの価格について、みんな話をしているんだと思うけれど。
その輪の中に交じることはできなくて、オレはただ大人しく雪夜さんと話せる時間を待っていた。
そうして。
満足そうに笑った兄ちゃんは、もう一度オレにスマホを手渡してくれて。
『……星、お待たせ』
再びオレの元に戻ってきた兄ちゃんのスマホからは、大好きな雪夜さんの声がする。でも、バイト続きで忙しいからか、弘樹と兄ちゃんと話して疲れてしまったのか、雪夜さんの声はさっきよりも気怠い感じがして。
「あの、大丈夫ですか?雪夜さん、疲れてません?」
『ああ……疲れてるっつーか、悪魔説得すんのに手間取った。星に代われっつったら、あの悪魔イヤだとか言い出すし、弘樹はバカだし。なんか色々と、不安にさせちまったみたいで悪かったな』
「ううん、大丈夫です。オレこそ、急に連絡しちゃってごめんなさい」
『んなコト気にすんな、お前が謝るコトじゃねぇーし。それより、クリスマスどっか行きてぇー場所あんの?あるなら連れてくけど、星くんは俺とどこ行きたい?』
「えっと……」
唖然としている弘樹が言っていたことは本当で、雪夜さんは優しくオレに行きたい場所を訊いてくれる。兄ちゃんや弘樹が部屋にいても、雪夜さんと声で繋がる今だけは、二人だけの時間のように感じた。
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