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第450話
「さっむぃ……」
無事に学校の終業式を終えて。
その帰り道に一人でフラフラと駅地下を歩くオレは、階段から吹き抜ける風に身を縮めてしまう。
年末最後のガラポン抽選会、その特設ステージの横を擦り抜け、地下街を歩く人々にオレは目線を移していく。コートやダウンを着込んでいる人が多く、やっぱりみんな寒いんだなって思ったりして。
地下街は弾むようなクリスマスソングが流れていたり、赤や緑のクリスマスカラーで賑わうお店が並んでいたりするけれど。
そんな賑やかな場所を通り過ぎ、オレが無言で向かった先は、駅の中心部でよく待ち合わせ場所に指定される金色の時計の前だった。
キョロキョロと辺りを見回し、忙しく行き来する人々を見つめながら、時計よりも輝く色をした髪の人物を探す。
「……兄ちゃん、まだ来てないや」
ユキちゃんとクリスマスデートするなら、俺ともデートしようって。兄ちゃんから誘われた本来の目的は、優さんと雪夜さん、それぞれの想い人へ贈るプレゼントを選ぶためのデートだから。
普段は優さんにまったく優しくない兄ちゃんだけれど、本当は優さんが大切なんだなって。オレにそう思わせてくれた兄ちゃんからのデートのお誘いは、なんだか気持ちがほっこりして嬉しかった。
クリスマスは、蟹を食べに温泉旅館へ行くらしい兄ちゃん。弘樹が帰宅したあと、オレがこっそり理由を訊いたら、蟹は美味しくて赤いからクリスマスカラーでいいでしょ、なんて。
最初は、意味の分からないことを言っていたけれど。本当は、優さんの好物だからクリスマスはチキンより蟹を選んだんだよって、兄ちゃんはそうオレに教えてくれた。
分かりやすい愛情表現ではないけれど、優さんは兄ちゃんから愛されているんだと思う。
そんなふうに思いながらも、まだ待ち合わせ場所に到着していない兄ちゃんに、オレは駅に着いた報告をLINEで送った。制服のポケットに忍ばせておいたカイロに触れて、外で冷えてしまった手を温めてみる。
「っ……」
少しだけ悴んでいた手が感じる温かさは、小さな痛みのあとにやってきて。手袋でもしてくれば良かったと思ったオレは、包み込んでくれるような柔らかな暖かさが恋しくなってしまった。
雪夜さんに、抱きしめてほしい。
こんな駅のド真ん中で考えることではないのに、恋しくてたまらない想いはぎゅっと胸をしめつける。でも、そんな冬の切ない気持ちがオレにヒントをくれたんだ。
嫉妬心や独占欲、たくさんの愛や小さな思いやり……雪夜さんに向けられるオレの想いがすべてを込められるようなプレゼントが、オレの頭にふっと浮かんできて。
「お待たせ」
「あ、兄ちゃん」
聞き慣れた声に顔を上げたオレは、キラッキラの王子様スマイルで笑う兄ちゃんを見る。冬らしい兄ちゃんの姿でやっぱりコレだって確信したオレは、雪夜さんのサンタさんになるために、兄ちゃんと二人で秘密のデートへ繰り出した。
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