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第451話
「あ、クレープ食べて帰ろ?」
「……兄ちゃん、待って」
サンタさんの妖精のようにたくさんのお店を見て回り、お互いプレゼントを手に入れたオレと兄ちゃんは人混みの中を歩いていく。
「うっわ、すっごい行列」
人混みが苦手ですっかりお疲れモードのオレとは違い、兄ちゃんははしゃいだままオレの制服の袖を引く。女の子たちが集まるお店の前、甘い匂いに誘われるようにカップルや女の子同士のグループが15組近く列を作っている後ろに、オレと兄ちゃんで並んだのはいいけれど。
列の長さに驚いたオレに、兄ちゃんは平気な顔をして笑うんだ。
「ここのお店は、いつもこんな感じだよ?よくね、優一人で並ばせて遊ぶもん」
当たり前のように列に並んでそう言った兄ちゃんは、メニューを見つめてどれにしようかと悩んでいる。
でも、メニューを選ぶよりも兄ちゃんの発言が気になったオレは、食べたいクレープのことは後回しにして兄ちゃんに問い掛ける。
「……え、この列に優さん一人で並ぶの?それで、そのあいだ兄ちゃんは何してるの?」
クレープ屋さんの列に一人で並んでいる優さんの姿が想像できずに、オレが兄ちゃんにそう訊くと、兄ちゃんは妖しい笑みを浮かべて、お店とは反対側を指差した。
「そこの壁に凭れて、逆ナンしてくる女の子たちの処理してる。そんな俺の姿を見て、イラっとしてる優を見るのがすっごく好き」
兄ちゃんとの待ち合わせ前に、オレが感じた淡い気持ちを返してほしい。優さんの嫉妬心を煽って楽しむためだけに、兄ちゃんは優さんを一人で列に並ばせているんだ。
「……兄ちゃん、あいかわらず性格悪い。一緒に並んで待ってるあいだも楽しい時間なんじゃないの?オレなら……ちょっと恥ずかしいけど、雪夜さんと一緒に並んで待ってたいって思うけど」
せっかく二人でいるのに、距離が離れてしまったら寂しいから。手を繋いだりはできないけれど、それでも隣にいたいとオレは思ってしまうのに。
「一緒に並んで待ってなくても、俺にとっては楽しい時間だからいいの。まぁ、ユキちゃんは絶対こんな場所で、せいを独りにしたりしないから大丈夫」
チラリとオレを見る兄ちゃんの流し目は、とてもいやらしくて。雪夜さんとは違った兄ちゃんの色気ある視線は、プレゼントが入ってるオレの鞄に向けられる。
「プレゼント、きっとユキは喜んでくれるよ」
「そうだと、いいんだけど」
兄ちゃんが雪夜さんをユキって呼ぶときは、冗談じゃなく真剣なときだって、オレは最近分かってきた。
でも、オレの鞄の中で綺麗にラッピングされたその中身を知るのは、オレと兄ちゃんだけだから。
「まぁ、あの変態野郎が喜ぶのは、裸にリボン巻いて『オレをあげる』が一番だと思うけど。せいがクレープみたいに、ユキちゃんにパクって食べられちゃっても困るから、冗談は言わないでおくね」
「……もう言ってると思うよ、兄ちゃん」
雪夜さんと初めて過ごす期待に溢れたクリスマスは、すぐそこまでやってきていた。
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