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第452話

隠された瞳が露になるのは、落ち着かない。 クリスマス前に、雪夜さんに会う予定だったのに。年末年始のバイトのシフト調整で時間が取れなくなってしまった雪夜さんとは、結局クリスマスイヴの今日が久しぶりに会える日になってしまった。 それなのに。 いつもオレの瞳を隠してる前髪が、今日は兄ちゃんに遊ばれて左右にわかれてしまっている。センターパートでエアリーに仕上げられた前髪が、頬の横でチラついて落ち着かない。 オレが着たがっていたキャメル色のダッフルコートに合うように、兄ちゃんが着せてくれた服はブラックカラーで統一されていて。いつもよりもずっと背伸びした雰囲気のオレは、オレじゃないみたいだ。 「よしっ!我ながら完璧だね」 「ホントに?ホントに変じゃない?」 クリスマスだからって、気合い入れてきましたって感じがして、オレはなんだかものすごく恥ずかしいのに。兄ちゃんはオレとは違い、とてもご満悦な様子。 「全然変じゃないし、ユキちゃんには俺がコーデするって言ってあるから、せいが不安がらなくても大丈夫」 「でも、こんな落ち着いた服装したことないもん」 「せいは普段白が多いけど、黒着ても似合うから自信もっていいよ。それより時間、ユキちゃん来るの何時だっけ?」 「10時半にはお迎え来てくれるって、言ってた」 少しの緊張感と、雪夜さんに会える嬉しさでオレの心はずっとソワソワしている気がするけれど。 「そっか、それじゃあそろそろ着いてる頃かな。ユキちゃんとの素敵な時間、楽しんでおいで」 「うん、兄ちゃんも優さんとゆっくりしてきてね」 優しく笑う兄ちゃんを背に、オレはプレゼントが入った黒のリュックを持ち家を出る。待ち合わせの時間より早く、オレの家の裏で待っていてくれた雪夜さんは、車に凭れて煙草を咥えていた。 「久しぶり、星くん」 丈が長めのチェスターコートに身を包み、オレを見つけると優しく微笑んでくれた雪夜さん。陽の光に柔らかく照らされた栗色の髪はとても綺麗で、雪夜さんの姿に見惚れてしまったオレは、挨拶もできずに固まったまま俯いてしまうけれど。 「うわっ!?」 雪夜さんに軽く手を引かれ、オレが再び顔を上げると、オレは大好きな雪夜さんに抱きしめられていた。 「あのっ、えっと……」 「星」 ずっと恋しかった、雪夜さんの温もり。 まだ外は明るくて、こんな場所で抱き合っていたらだめだって分かっているのに。抵抗するより先に安心してしまったオレは、恥ずかしくて……雪夜さんと目が合わせられないまま、小さな声で想いを囁いた。 「会いたかったです、雪夜さん」 「ん、俺もお前に会いたかった」 ふんわりと肌触りの良いニットがオレの頬を撫でて、雪夜さんの胸に顔を埋め幸せを噛みしめていたオレを、雪夜さんは優しさいっぱいで抱きしめてくれる。 デートが始まる前からずっと、欲しかった時間を手に入れることができたオレは、いるはずのないサンタさんに心から感謝した。

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