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第453話

ずっと外で抱き合っているわけにもいかず、オレは車に乗り込んだ。最初の目的地まで連れていってくれる雪夜さんの姿を、オレはドキドキしながら眺めている。 兄ちゃんにされたコーディネートも、いつもと違う髪型も。たくさん褒めてくれた雪夜さんは、前を向いたままオレに声を掛けてくる。 「星、煙草ちょーだい」 「はい、どうぞ」 「ん、サンキュー」 すっかり慣れてきた、雪夜さんの隣の席。 煙草を渡すのも、ジッポを手渡すタイミングも。オレがいなかったらきっと独りでできちゃうことでも、雪夜さんがオレを頼ってくれてるみたいで嬉しいから。 好きだなぁって、しみじみ思う運転中の雪夜さんの横顔に、オレはまた恋をしてしまう。 真っ直ぐに見つめられた視線の先にオレがいることはないけれど、集中してる感じとか、頬にかかる髪とか、首筋からハンドルを握る手までのラインがとっても綺麗でかっこよくって。 ゆったりと過ごせる部屋とは違うけれど、そう広くはない車内に漂うブルーベリーの甘い煙草の香りは、二人だけの空間だって……そっとオレに、教えてくれるのが好きなんだ。 だから雪夜さんには、ドライブしたいってお願いしたんだけれど。雪夜さんへ知らぬ間に熱い視線を送っていたらしいオレは、雪夜さんの大きな手で頭をくしゃりと撫でられた。 「星くん……そんなに見つめられると俺でも照れんだけど、なんで俺よりお前が赤くなってんの?」 「なんでって……んっ、いひゃぃ……」 そのまま信号待ちになり、手が空いた雪夜さんにきゅっと摘まれた頬はそこまで痛くない。でも、意地悪な笑顔をオレに向ける雪夜さんはいたずらっ子のようで。 「あんま可愛い顔してると、ランとこ行かずにそのまま俺ん家に連れ帰るからな」 ニヤリと緩んだ口元が示すのはきっと、触れ合って重なり合うそんな事情のコトだ。 でも。 「んー、それはいやです……今日はちゃんとデートするって、二人で決めたじゃないですか?」 そういうことを、したくないわけじゃない。 でも、今日は二人で決めたデートコースを一緒に回るって約束したのに。眉を下げて問いただすオレに、雪夜さんはなぜか安心したように微笑んでくれた。 「んなもん分かってっけど、星くんクリスマスだからって緊張してんだろ。さっきからお前、俺と全然話してねぇーこと気づいてるか?」 「あ……だってそれは、なんかドキドキしちゃうし、でも一緒にいれるだけで嬉しいし……緊張というか、なんというか、好きだなぁって思っちゃって」 話したいことは山ほどあるのに、ついつい雪夜さんに見惚れていたオレは、会話がないことにも気付かずに一人でのほほんと、この時間に浸っていたみたいだ。 けれど。 「久しぶりに会えたからな。お前の気持ち、俺もよく分かる……急に大人びた雰囲気漂わせられたら、意識すんなってほうが無理だし」 雪夜さんはそう言うと、クスッと笑ってオレの気持ちを肯定してくれたんだ。

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