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第454話

「メリークリスマス、星ちゃんっ!」 「オカマ、うっせぇーよ」 「お久しぶりです、ランさん」 オレがクリスマスに雪夜さんと来たかった場所、それはランさんのお店だ。雪夜さんのお家と車、その次にオレが落ち着ける空間はランさんのお店かなって思ったから。 外で食事するならランさんのお店がいいって、オレが選んだ場所に雪夜さんは約束通り連れてきてくれた。 「星ちゃんはまた一段と、愛らしくなったわね。やっぱり目元がしっかり見えているほうが、星ちゃんの良さが際立つわ」 「ああ、今日は光の見立てだ」 「さすが、光ちゃんね。星ちゃん、クリスマスのデートにうちを選んでくれてありがとう。私、とっても嬉しいわ」 「いえ、こちらこそ……お忙しいのにお邪魔してしまって、すみません」 「忙しくねぇーし、ずっとお前に会いたいって騒いでたのはランだからいいんだよ」 「あら、失礼しちゃう。うちもそれなりにこの時期は忙しかったりするのよ?それより雪夜、貴方の頼み聞いてあげたんだから、少しは私に感謝なさい」 まだオープン前の時間でも、お店を開けてくれたランさんは、雪夜さんにそう言って笑っていて。奥の個室に案内してくれたランさんは、お絞りとお水、ペリエと灰皿を用意してくれたあと、メニューを訊かずに、ごゆっくりってオレにウインクしていなくなってしまった。 ランさんが与えてくれた、雪夜さんと二人だけの時間。何も言わないランさんは、オレにとって素敵なサンタさんだなって思いながらオレはソファーに腰掛ける。 「今日は、カウンターじゃないんですね」 「個室空けとけって、ランに言っといたんだよ。こっちの方が周り気にせず、ゆっくりできんだろ?」 ハンガーにコートをかけてくれた雪夜さんは、ふかふかのソファーに身を預けたオレの膝の上に転がってきて。 「あ、ちょっと……雪夜さんは、ゆっくりしすぎです。ランさん来たら、怒られちゃいますよ?」 雪夜さんにそう言いつつも、オレが変に緊張してしまうのを避けるために、飾ることなくいつもと同じ距離感でいてくれる雪夜さんの優しさが嬉しかった。 「アイツのことは、どーでもいい。俺がここで寝てんのなんか見慣れてっから、今更怒らねぇーよ……んなコトより星くん、俺にずっとしたかったコトあんじゃねぇーのか?」 そう尋ねて、オレを見上げて微笑む雪夜さん。 伸ばされた手がオレの頬を撫でて、ゆっくりと唇をなぞる指はオレだけのモノだから。 「んっ……」 ずっと我慢していたことを雪夜さんに見抜かれて、遠慮なく噛み付いた指には、痛々しい痕が残る。でも、ソレを見るだけでとっても幸せな気分になれちゃうオレは、自然と笑顔になってしまって。 「すっげぇー可愛い顔して笑いやがって、やっとお前の痕ついた……愛してる、星」 幸せだって思っているのは、オレだけじゃない。そう実感させてくれた雪夜さんの笑顔が、とっても素敵に見えた瞬間だった。

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