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第455話

二人だけの時間を満喫していたオレたちに、ランさんからのプレゼントとして用意されたのは、お店のメニューに載っていない特別なものだった。 色鮮やかな前菜の盛り合わせや、メインのローストビーフ、おまけのデザートが並ぶテーブルはとても華やかで。オレは、ランさんと一緒にノンアルコールのスパークリングワインで乾杯したんだ。 「……恋人たちのクリスマスイヴに、わざわざ仕事なんかしたくないわね」 ワイングラスを手に持ち、溜め息を吐いたランさんは、オレたちと反対側のソファーに座り足を組んでいる。 「ラン、お前仕事以外できねぇーだろ」 「そんなことないわよ、失礼しちゃうわ。私だって、仕事以外にもやることあるんですからねっ?!」 「例えば?」 「……店先のお花に水やりしたり、メニューやカクテルの見直ししたり、色々と」 段々と小さくなっていくランさんの声と、丸まる背中。仕事一筋らしいランさんが小さくなってしまい、オレは気の毒に感じてしまうけれど。  「ラン、自覚があるなら仕事戻れよ。お前にはすげぇー感謝してる、ありがとう」 こんな日に仕事なんかしたくないと、騒いでいたランさん。けれど、雪夜さんが素直に感謝の言葉を口にした途端、ランさんは綺麗な笑顔を見せて静かに部屋から出ていった。 「雪夜さんっ、すっごく美味しいです!」 「ん、ゆっくり食え」 オレと雪夜さんのためだけに、ランさんが腕を振るってくれた料理はどれも本当に美味しくて。安らぎの時間とともに提供された料理に舌鼓を打ち、幸せいっぱいのオレは頬が緩みっぱなしだ。 「星くん、すっげぇー幸せそうだな」 用意されたデザートは一つだけで、小さな苺のムースケーキを食べているオレと、デザートよりも食後の煙草を咥えている雪夜さん。 「だって、雪夜さんと一緒にいれるだけでとっても嬉しいのに、こんなに美味しい料理を二人で楽しめたんですよ?幸せじゃない方がおかしいです」 最後の一口を食べ終えて、ご馳走様でしたと手を合わせたオレは、雪夜さんに視線を向けてそう言って首を傾げた。 「美味いもん食ってるときのお前は、光以上にキラキラしてるからな。星の笑顔が見れて、俺も幸せだ」 「えへへ……あ、雪夜さん?」 「んー?」 幸せだって、微笑んでくれた雪夜さんの言葉が嬉しくて。オレは雪夜さんの首に腕を回し、きゅっと抱き着き囁いてみる。 「雪夜さん、大好きです」 ランさんからのプレゼントだけれど、雪夜さんとランさんのやり取りを聞く限り、きっとこれは雪夜さんがオレのために頼んでくれたことなんだろうなって思うから。 感謝の気持ちを込めて抱き着いたオレの頭を、雪夜さんはわしゃわしゃと撫でてくれる。 幸せ過ぎるこの時間が、いつまでも続いてほしい。雪夜さんと初めて過ごすクリスマスは、そう思わずにはいられなくなってしまうくらい、オレにとって最高のクリスマスになっている気がした。

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