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第457話

【雪夜side】 今日だけで、何回車のミラーを覗き込む星を見かけていることだろう。クリスマスデートだからと、光に弄られた髪型が気になるらしい星くん。 センターパートでふわりと左右に流された前髪は、星の愛くるしい瞳を隠すことなく揺れている。キャメル色のダッフルコートはその愛らしさとマッチしていて、一見すると可愛い印象を与えるが。 コートを一枚脱げば、星が普段着ることのないブラックカラーが身を隠していた。シックな雰囲気で、いつもより大人びて見える服装は、正直かなり俺好みだ。 可愛らしくて愛らしい、それは星がどんな格好をしていても変わることはないけれど。星が持っている自然な素材を最大限に利用し、品良く仕上げた光の見立てに俺は感心した。 笑顔のままソワソワしっぱなしで、星から伝わってくるちょっとした緊張感は、今日がクリスマスイヴなんだと俺に実感させる。 星から誘ってくれた、クリスマスデート。 独りで色々と考えた結果、結局二人で出したドライブの行き先。ランの店へ行き、あらかじめ頼んでおいた星くんだけの料理に満足してもらい、その後、アウトレットモールへ立ち寄って。 星が行きたがっていたアイスクリーム屋の前で、星くんに悪戯しつつ俺は可愛い笑顔を堪能した。色々な店を見て回り、星がとある店で物欲しそうに眺めていた、猫のプリントがされたマグカップをペアで買ったりして。最後の目的地へと辿り着いたときには、辺りもすっかり暗くなっていた。 アウトレットモールからは、そう遠くないイルミネーションで有名な場所。最後はクリスマスらしい所に行こうと約束した俺たちを迎えるように、眩し過ぎるくらいの光に包まれる。 甘えたりはしゃいだり、怒ってはすぐに恥じらったりと、今日1日だけで色んな表情を俺に見せてくれた星。ここではどんな顔をするんだろうと思いながら、俺は星と二人で寒空の下を歩いていく。 「さっみぃー、クッソさみぃ」 「だから、本当にいいんですか?って、オレ雪夜さんに何度も聞いたじゃないですか」 「あ?」 「雪夜さん、寒がりさんでしょ?」 「お前がいたら、温まっからいいんだよ」 吸い込んだ空気は冷たくて、一息ごとに吐く息は白く湯気り、イルミネーションで輝く夜空に気体となって散っていく。キャメル色のダッフルコートに手を伸ばし、その横でフラフラと遊ぶ星の手をそっと握って。俺は星の空いたポケットに、その手を突っ込んだ。 「雪夜さんっ!?」 「邪魔すんぞ」 驚きながらも、繋いだ手を離さずに小さく握り返す星。星のコートのポケットの中、昼間よりも縮まった俺たちの距離に気づくヤツなんて誰もいない。 いくつもの小さな光が集まって作られるイルミネーションに夢中なのは、星だけじゃなく周りのヤツらも同じだから。 寒さからか照れなのか、いつもより頬を赤く染め俺の隣で笑う星は、イルミネーションの光よりも輝いているように思えた。

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