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第458話

広い敷地内をゆっくりと二人で歩いて、イルミネーションの光に照らされる星の姿に心惹かれてしまう。 「光のトンネル、やっぱり綺麗ですね」 「この電球、全部にちっせぇー花のソケットがついてんだってさ。夜でもここは、お花畑らしいな」 イルミネーションがやっていない時期のこの場所は、花の楽園だ。きらめく光に包まれていなくても、星ならきっとこの場所はよく似合うだろうと思い俺がそう言うと、星はクスッと笑って俺を見る。 「お花畑って、雪夜さんに似合わないです」 星には似合っても、俺には似合わないらしい。 自分でも似合わないと思うのだから、星くんの言ってることは正しいけれど。 「星にはぴったりだけどな、イルミネーションよりお前の方がずっとキレイだ」 何言ってんだと思いながらも、そう感じてしまうのは事実なのだから仕方ない。真っ直ぐに見つめられた瞳の中には、星の可愛らしい表情に満足している俺がいた。 このまま人目を気にせず、抱きしめてやれたらいいのに。人気スポットなトンネル中じゃ、人は多いし、なにより明るすぎる。 俺はそうも気にしないが、この場で俺が星を抱き寄せたら……おそらく星は怒って、俺の煙草を奪うだろうから。この場で抱きしめてやるわけにはいかなくて、けれどやはり腕の中にそのカラダを収めてやりたくて。 長いトンネルを通り抜けたあと、俺たちが向かった先は鮮やかな光に彩られたチャペルの前だった。 「ここのツリーも、とっても綺麗です!」 白と青、二つの大きなツリーに目を輝かせている星を見ると、連れてきてやって良かったと素直に思うことができる。なんでもないありふれたデートでも、コイツが笑ってくれるなら特別なものに変わるから。 ツリーの光を堪能した星と二人、並んで腰掛けたのはチャペル横の小さなベンチ。明るくも暗くもなく、人もそこまで多くはないこの場所なら、冷えたカラダを温めてやれそうだと思った。 何も言わないが、寒そうにしている星に視線を移し、ずっと見えない所で繋がれていた手を一度離して。周りの景色に気を取られている星のカラダを、俺は半ば強引に抱き寄せた。 「……雪夜さんっ!?」 「んー、ナニ?」 「なにじゃないですよ、また外でこんなことして……オレたち、誰かに見られちゃいます」 「まぁ、見せときゃいいじゃねぇーか。お前ちっせぇーから俺で隠れるし、問題ねぇーだろ」 戸惑う星を抱く手に力を込めれば、俺の胸に顔を埋めて耳まで赤く染める仔猫がいて。 「……もぅ、ばか」 「バカでもアホでも、なんとでも言え。俺、お前のこと離す気ねぇーからな」 「雪夜さん、あったかい」 小さくそう囁いた星は、俺の背中に手を回し控えめにコートを掴む。抱きしめた星の首筋に赤く色づく痕を残し、ソレを隠すプレゼントを手渡してやるために、名残惜しく俺から離したカラダ。 純粋無垢な仔猫がサンタに望んだコト、その答え合わせをする時間がついにやってきた。

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