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第461話
冬休みで俺の家に遊びに来ている、可愛い仔猫を家に残して。俺は残り少ない今年の時間を、バイトに費やしていた。バックヤードで商品の在庫確認をしている康介の手伝いだから、今日は接客しないで済むし、楽でいいのだけれど。
「なんなんだ!?このクリぼっちだったヤツと、そうじゃないヤツの差はっ!!どうやったら、そんな幸せオーラ出せるようになんだよッ!?」
クリスマスを独り寂しく過ごしたらしい康介は、鼻歌を歌い手元を動かす俺に喋り続けている。そんな愚痴を聞くのも面倒でシカトし続けていると、キレ気味の康介が吠えてきた。
「白石のバーカ、バーカ、バァーカァッ!!」
「アァ?」
立ちっぱで作業してる俺の斜め前、地べたに座り込んで俺を見上げて吠える康介を左脚で蹴り上げる。いつまでも学習しないバカは、康介の方なのに……コイツは何回、俺に蹴られりゃ満足すんだよ。
「……ッてぇ!!お前の蹴りマジで痛てぇ、正確なインステップで人を蹴り上げるのはやめてくれ……ケツが痛てぇよ、ケツがぁ……」
「これでもおさえてやってんだ、ボール蹴る時の半分くらいしか力入れてねぇーよ。一回マジで蹴った時、お前立てなくなっちまったからな」
「あん時は死ぬかと思った……アレからだろ?お前がサークル来なくなったの」
「そうだったか?全く記憶にねぇーわ、とりあえずお前が死にそうだったのは覚えてっけど」
「こんなヤツらとボール蹴り合うくらいなら、オナってた方がマシだって……あん時俺にそう吐き捨てて、お前は半殺しにした俺をスパイクで踏みつけてったんだよッ!!」
「あー、ソレは可哀想に」
サッカーサークルとは名ばかりで、大学非公認のサークルは本当に酷かった。康介に連れられ仕方なく参加したものの、あまりの底の低さに呆れ、俺は康介を半殺しにしていたらしい。
「お前、キレるとヤバイからな……でも俺さ、白石ってすげぇサッカー好きなんだなって、あん時思ったんだよね。アレ確か、一年の夏だぜ?」
「バカなクセして、そんなくだらねぇーコトは覚えてんだな」
当時の俺が康介に何を言ったかなんて、全く覚えていない。もちろん、スパイクで踏みつけたことすら俺の記憶にはない。ただ、あの時……俺はこんなヤツらと同じ穴の狢なんだと、そう思った自分自身に腹が立ったんだと思う。
帰ると言った俺を引き止める康介に、俺が思い切り蹴りを入れたら、康介が芝に倒れて動けなくなっていたことしか、今の俺は覚えていなかったけれど。
「衝撃だったんだよ。お前のサッカー愛は他のヤツらとはちげぇんだなって実感して……白石でも熱くなれるモン持ってんだなって思ったんだ。それから俺は、コイツただのイケメンじゃねぇなって思い始めて……って、白石お前さ、人の話聞けよッ!!」
「あぁ、わりぃー。仔猫からのLINE見てた」
「ったく、血も涙もなさそうだった男がよくここまで変わったもんだぜ……なんかもう、仔猫ちゃん様々だな」
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