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第463話
大晦日を迎え、1年の締め括りとなる夜のこと。自宅で家族と年越し蕎麦を食い終わった星くんを連れ、二人で初詣に行くため、俺は星の家の裏まで車で迎えに来たけれど。
暖房を効かせた温かな車内で煙草を吸って待っていた俺の前に姿を見せたのは、俺が愛してやまない仔猫ではなく、その兄の執事だった。
暗い背景に溶け込むような黒のロングコートを身にまとい、颯爽と歩くその姿は執事と呼ぶに申し分ないんだろうが。
……なんで優が、ココにいんだよ。
寺の息子である優は、この時間何かと忙しいハズだ。それなのに、俺の車を見つけた優は俺に軽く微笑むと、視線だけで車から降りるように促してくる。
煙草を咥えたまま仕方なく温かな車内から外へ出ると、冷たい夜風が俺の頬を撫でていき、寒さで身を縮めた俺は優を睨みつけた。
「久しぶりだな、雪夜。除夜詣の参拝には俺と光も同伴するから、悪いが今からそのつもりで予定を組み替えてくれないか?」
「はぁ?あの悪魔から俺なんも聞いてねぇーんだけど……ってか、お前寺は?連れてくのは構わねぇーけど、俺ら行くの神社だぜ?」
信仰している宗教もなければ、神などこれっぽちも信じていない俺とは違い、仏教徒で本堂が家の敷地内にある優が神道の神社に行くのは、なんとなく非常識な気がしてしまうのだが。
そんな俺の考えを鼻で笑った優からの言葉に、俺は笑うしかなくて。
「宗教云々より、王子様の命令を何より優先する。俺が寺の手伝いをするのは明日からだしな、問題はない」
「……お前は、寺の息子失格だ」
このアホな執事が信仰するのは、仏様でも神様でもなくたった一人の王子様らしい。バカップルにも程があんじゃねぇーかと頭の隅で思いながら、煙草の煙を吸い込んだ俺に優は問いかけてくる。
「誰も、俺が寺を継ぐとは言ってないだろう?俺がいつ、住職になると言った。俺が行く行く任されるのは、寺と隣接している保育園と私立幼稚園の経営の方だからな。住職は今後、姉の旦那様がなさる予定だ」
「ふーん、息子いんのに婿養子ってどうなんだ」
「現住職の父が母に惚れ込んで今の家庭があるからな、うちは母が誰よりも権力が強い。それに、俺は檀家さんたちから嫌われているから、息子の俺よりも愛嬌のある姉の方が場を上手く纏められる」
「なんだそれ……まぁ、俺には関係ねぇーからどーでもいいけどよ。お前も、それなりに家庭問題で苦労してんだな」
「うちも色々と、面倒なことが多いんだ。光は、ソレをよく理解しているからな……雪夜に連絡もせずに、急遽俺を呼び出したのもただの我儘ってわけではないだろう」
「俺は星くんと一緒にいれりゃ、なんでもいい。とりあえず連れてってやっから、お前らはお前らの好きにしろ……っつーかアレだ、お前は光が俺たちの邪魔しねぇーように、しっかり見張っとけ」
もうすぐ今年も終わって、新たな年がやってくるというのに。いつもとなんら変わりのない俺たちは、お互いに最愛の人が現れるのを待っていた。
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