465 / 570
第465話
目的地に着いて早々、屋台を見てはしゃぐ兄弟を優と宥め、俺たちがとりあえず先にやってきた鳥居の前からは、すでに除夜詣の参拝客で溢れかえっていた。
「まだ年明けてないのに、人多いね」
「これでも、地方の神社だからな……神宮の方行ってたら、俺ら今頃死んでる」
俺の実家近くの神社か、ここらじゃ有名な神宮の神社か、はたまた星の家の近所の観音様か……どこへ参るか色々と悩んだが、俺は勝手が分かっている地元の神社を選んだけれど。
思っていたより多くの参拝者が訪れていることに、俺たちは驚いていた。
「星君、そのまま雪夜から離れないようにしておいた方がいいかもしれない。うちの王子様は何処にいても目立つ奴だから万が一俺の不注意で見失っても問題はないが、この人混みの中ではぐれたら大変だ」
「あ、はい。オレ、ちゃんと雪夜さんに掴まってるんで大丈夫です……というより、離してもらえそうにないので」
「ユキちゃん寒がりだから、せいとくっついてないと寒くて死んじゃうんだよ。それにしても、このユキちゃんが神社に来るなんてね」
「お前の目的も、どうせ神頼みじゃねぇーだろ。悪魔が、神に願いごとしてどーすんだ」
少しずつ前へと進んでいく列に四人で並び、小さな星が離れないようコートの中へと無理矢理招き入れて。暖を取る俺を見てニヤリと笑う光は、俺と同じで神も仏も信じていないのに。
今年の礼と来年の願いを神に祈ってどうなるのだろうと思うが、毎朝の占いですら信じてしまう星くんはきっと、宗教関係なく100パーセント神の御加護を信じていそうだから。
煩悩まみれの友人二人とともに、穏やかな視線を俺から受ける星だけが、この四人の中で唯一、まともに参拝に来ている客だろう。その証拠と言わんばかりに人混みが苦手な星くんが、今日は珍しく疲れた顔もせず楽しそうに微笑んでいる。
俺が神に祈ることがあるとするなら、それは星の願いを叶えてやってほしいと思うくらいだ。小さな星の手を握り、この手を合わせて願うことは一体どんなものなんだろうと考え、過ぎてゆく時を感じて少しだけ切なく思ってみたりした。
「あ、あと1分で今年も終わるよ。優、カウントするから年変わる瞬間にジャンプしてね?」
「……仰せのままに、王子様」
「光、優にアホなコトさせんなよ。お前らはいいかもしんねぇーけど、横にいる俺らがすげぇー恥ずいからやめてくれ」
変わるようで変わらない悪魔二人は妖しく微笑み合い、言葉にすることのない互いの想いを俺に見せつける。面倒で鬱陶しくもある二人だが、コイツらはそのままバカな王子と執事のままでいてほしい。
「雪夜さん、行きましょ?」
今年最後の溜め息を吐き、足を止めていた俺を見上げ、微笑んでくれる星。この手で愛し守り抜きたいと思わせてくれる、大切な人ができたこと。
その出逢いとこの1年はまるで、モノクロだった俺の世界に淡く鮮やかな色を添えていくような、甘くて幸せな日々を初めて感じられた暖かな年だった。
ともだちにシェアしよう!