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第466話

「……とっても、綺麗ですね」 「キレイだけど、お前ら眩しくねぇーの?」 年が明けて、無事に参拝も終わり神社から少し離れた堤防沿いに車を駐め、誰もいない河川敷で日の出を待っていた俺たちの前に柔らかな光が現れる。 「ユキちゃんの瞳は色素薄すぎるんだよ、羨ましいくらいキレイな色してるもん」 「雪夜の眼の色は、ウルフアイズと呼ばれるそうだ。狼の瞳の色アンバーと同じらしい、雪夜そのままだな」 「狼さんの瞳の色って、青じゃないんですか?」 「ソレは幻想で、生物学的には青い眼の狼は存在しねぇーんだよ……星くん、こっち向いて」 「ん……ちょっ」 今年最初の日の出を眺める星の瞳は、輝いていて。抱き寄せた小さなカラダに囁きかける俺は、星にしか聞こえないくらい静かな声でそっと想いを呟いていく。 「これから先も、その瞳に俺だけ映してほしい」 「雪夜、さん」 赤く頬を染めて俺を見上げコクリと頷いてくれた星くんを抱きしめ、暖かな気持ちで迎えられた新年は穏やかにスタートした……なんてわけでは、なさそうだ。 「優、変態オオカミがいる」 「年明け直後から、雪夜は雪夜だな」 「うっせぇーな、お前らだって年明け早々イチャつきまくってたじゃねぇーかよ」 「え……そうなんですか?」 日の出を待つあいだ、何度か俺の腕の中で寝落ちかけていた星くんは、悪魔二人のじゃれ合いに気付かぬままだったが。まだ暗い夜空の下で、光と優が互いを温め合うように抱き合っていたことを俺は知っている。 今さっきだって、日の出に夢中な星の目を盗み、二人が交わしていた口付けを俺は横目で見ていたから。そんなコイツらには、ただ星くんを抱いているだけの俺を変態だと罵る資格はない。 「アイツらは、俺より変態だ」 不思議そうに首を傾げる星くんの頭を撫で、ニヤつく友人二人を睨みつけた俺は、そのまま視線を腕時計へと移し、あと数時間で訪れる地獄の時を確認する。 年明け一発目からのバイトは、戦争だ。 福袋目当ての客が、店の開店前から並んでいるのを見るだけでぐったりしてしまう。それでも営業スマイルを心掛け、仕事をしなきゃならないのは結構辛い。 そんな思いを星には気づかれないように、煙草を咥えた俺は星から少しカラダを離してジッポを取り出し火を点つける。 「雪夜さん、離れちゃイヤです」 「……ああ、わりぃーな」 ほんの少しだけ開いた距離を埋めようと、俺のコートを掴んだ星の手を握り返し、煙草を咥えたまま俺は星を抱きしめる。 「溺愛ユキちゃんと、健気なせいくんって感じ」 「光、おいで。今は茶化さず、そっとしてといてやろう……寂しげな雪夜を眺めるのも、悪くないからな」 「それもそうだね。俺たち年明けから、良いもの見れたかも」 人の不幸は、蜜の味。 力強く抱きしめた星の温もりを感じながら、聞こえてきた悪魔の声に俺はただ苦笑いして。今年もよろしくと小さく呟いた友人に、俺は無言のまま煙草を持った片手を上げた。

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