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第467話
穏やかな星との時間を過ごし、俺は新年のバイトという地獄の3日間を耐え切った。
そして、今日。
更なる地獄の地へとやってきた俺は、実家の玄関先で大きな溜め息を一つ吐く。
インターホンを鳴らし、数秒して開いたドアから現れた相手は、犬のように俺に飛びついてきて。
「ゆきにぃっ!!」
「……離せ、華」
俺が帰るなり、想像通りに抱き着いてきたのは妹の華だった。甘ったるいコロンの香りと女特有の独特な化粧品の匂いを漂わせ、会わないあいだに容姿だけはすっかり女らしくなった妹。
琥珀色の瞳に俺や飛鳥より暗い色の髪、そのへんのヤツらよりか顔立ちは整っている方だとは思うが、興味ない妹がいくら着飾っても俺はなんとも思わない。
夏に帰ってきたときは、会わずに済んだのに。
俺の腰に無理矢理しがみつき、離れない華を睨みつけた俺は、そのまま妹を引きずりリビングへ向かう。
「あけおめ、やーちゃん」
「雪、お帰り」
この二人の兄貴のように、華が戯れ合って来ようものなら、蹴り飛ばせるくらい意地の悪い兄
だったなら……俺もここまで懐かれていなかったのかもしれないと、リビングのソファーで寛いでいる飛鳥と遊馬を見てそんなことを思うけれど。
「なんでもいいからとりあえず、コイツをどうにかしてくれ……重いし、ウザい」
俺のためにわざわざ時間を空けてくれた兄貴たちに、助けを求める感覚で呟いた俺は、華を引き剥がしにかかる。
「ゆきにぃっ!やだっ、華は離れないもんっ!!」
「なーちゃん、やーちゃんが正月帰ってきたらメシ作ってもらうって約束しただろ?お前が離れねぇと、俺らいつまで経ってもメシ食えねぇんだけど」
「そうだぞ、華。雪の作るメシ待ってんのは鳥だけじゃねぇんだから、とっとと離れろ」
「んー、分かった……じゃあ、今だけは我慢する。今、だけ、ねッ!!」
俺に抱き着いて離れない華を何とかして兄貴二人が離れるように促してくれたものの、何も聞いていないその理由に、また一つ溜め息が漏れていく。
「……兄貴、誰がメシ作るなんて言った?」
実家に帰ることは仕方なく了承したが、俺は飯を作るとは言っていないし聞いていない。しかし、相変わらずの兄貴たちは俺を見て笑うだけだ。
「なーちゃんがお前から離れるようにしてやったんだから、お前がそんくらいすんのは当然だろ」
「ねぇ、ゆきにぃ?抱き着かないから、そばにいるくらいイイでしょ。せっかく会えたんだから、そのくらい許して」
「雪、腹減った」
好き勝手言いやがる兄妹たちを、やはり俺は好きになれそうにない。ここから始まる地獄の時間を考えると、すぐさま帰りたくて堪らなくなるけれど。
「お前らマジでうぜぇー、コレだから帰ってきたくねぇーんだっつーの」
前には感じなかった小さな優しさを、兄貴たちからは感じることができるから。呟くようにそう吐き捨てコートを脱いだ俺は、リビングの奥のキッチンへと足を進めた。
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