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第468話
俺がいないあいだ、コイツら兄妹は一体何を食って生きたんだと思うくらい、使われている様子のないキッチンはやけにキレイな状態のままで。ただデカいだけの冷蔵庫の中は、ミネラルウォーターと酒の山だった。
その中で、値段も見ずに買われてきたんであろう、雑多に置かれた食材たちが申し訳なさそうに俺に助けてくれと主張する。
しかしながら。
三が日は明けたが、世間はまだ正月ムードが漂っているのに。この家に餅の気配はどこにもなく、雑煮すら満足に作れそうにない。
せめて先に伝えておいてくれさえすれば、食材調達から俺がやってやったのに……なんて、当たり前のようにその考えが浮かんだ自分に、内心かりうんざりした。
この家では、俺が家事全般を担うのは当然であり必然のこと。小さな頃から少しずつ確実に植え付けられた先入観は、こんなところにも顔を出す。
それが耐え切れず、俺はこの家を出たというのに。1日だけでも舞い戻ることを躊躇ってしまうのは、こんな現実が待っていることを頭の何処かで理解しているからなんだろう。
そんな実家の状態に漏れた溜め息は大きく、俺は仕方なく適当にメシを作るしかなくて。
ここに星くんがいたなら、なんでもない話をしつつ楽しく料理を作ることができるのに。俺を邪魔するように隣にいる華は、なんの役にも立たなかった。
そんなこんなで華が希望したクリームパスタと、兄貴たちの酒のつまみがいくつかテーブルの上に並び、ソレを囲むようにしてL字型のソファーに兄妹四人で腰掛ける。
俺の左側に華、右側に飛鳥、一人だけ距離を置いてゆったりと自分の世界に入るのは遊馬。各々が好きなように食事をとり、好き勝手話し出す……当たり前のようだが、兄妹だけでも四人揃えば、それだけで煩く感じてしまう。
そんな中、酒と料理に舌鼓を打って。
俺を見て微笑み、口を開いたのは飛鳥だった。
「やーちゃんは、イイ嫁になれるな」
「アホじゃねぇーの、嫁いくのは華だろ」
「えーっ!?華は嫁になんかいかないし、ゆきにぃとずっと一緒にいるもん」
愛する星くんに言われると嬉しい言葉が、華に言われると鬱陶しく感じるのは何故だろう。ずっと一緒にいたい、その言葉は星だけの特別なものなんだと俺は再確認する。
「いかないんじゃねぇ、華はいけねぇの間違いだ。こんなクソ女を欲しがる野郎がいるなら、今すぐくれてやる」
「馬にぃウザイんだけど、これでも華はモテるんだから!アンタみたいな車バカと、この華様を一緒にしないでくれる?」
「なーちゃんはやーちゃんが好きだからって、悩める狼たちをことごとく振り続けてんだとよ」
「俺関係ねぇーし、どーでもいいわ」
煩い兄妹たちの会話を聞いているだけでうんざりしてくるが、耐えなきゃならないのは今日1日だけだ。そう自分に言い聞かせ、ボーッとしながら俺は煙草を咥え火を点けるけれど。
そんな俺の隣でニヤリと笑った悪魔がいることに、俺はこの時気付かずにいた。
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