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第469話

「やーちゃん、火ちょーだい」 片手にロックグラスを持ったまま、煙草を咥えた飛鳥は俺にそう言って微笑みかける。テーブルの上に置かれた俺のジッポを勝手に使えばいいのにも関わらず、俺の顎をそっと掴む兄貴。 口に咥えられたままの煙草と、その一瞬の仕草で兄貴のしたいコトを理解した俺は、ジッポに手を伸ばすことはせず、火の点いた煙草を咥えて大人しく顔を上げてやる。 「……イイ子、ちゃんと咥えて吸っとけ」 少し前の俺なら確実に、兄貴の言うことを気かずに殴り合いが始まるんだろうけど。そこまでする気にもなれず、言われるがままの俺に満足そうに笑う飛鳥。 少し伏せられた瞼に、俺と同じ色の瞳。 俺にはない飛鳥が醸し出す色気を感じつつ、煙草の先端を合わせ互いに吸っていけば、俺の煙草から兄貴の煙草へゆっくりと火が移っていった。 「……ん、点いた。さすが俺の弟、ヤり慣れてて吸いやすい」 「シガーキスとかアホくせぇー」 「すぐ分かって、顔上げたクセに。煙草ナシの方が良かった?やーちゃんが溶けるくらいの、マジのキスでもしてやろうか?」 「変態」 互いに煙草の煙を吐き、ニヤリと笑う俺と飛鳥。そんな俺たちの姿を横目で眺め、酒を煽った遊馬は安堵したように微笑んでいた。 好きにはなれなくても、過去の過ちを懺悔し歩み寄ろうとしてくれている飛鳥と遊馬。正しいやり方ではないのかもしれないが、その想いは少しずつ兄貴たちから見え隠れし始めている。 過去に縛られ嫌悪感しか抱けなかった兄貴たちを、違う視点で見るように促してくれたのは星だ。直接そんな会話を星としたことはないが、小さな愛の形を俺に教えてくれたのはアイツだから。 不器用ながらに互いを認め始めた俺と兄貴二人の空気感は、今までにない穏やかなものだけれど。その空気を読んでか読まずか、俺の腕にしがみついて吠える華だけが、昔と変わることがないままだった。 「鳥にぃ、ズルイっ!!ちょっと馬にぃ、このアホウドリどうにかしてよっ!?」 「ア?どうにかなんねぇから、アホなコトしてんだろ。鳥は脳みそちっせぇしな」 「まーちゃん?表出ろよ、一発ヤろうぜ?」 「ヤらねぇよ、そのまま雪抱いて遊んどけ」 「だってさ、なーちゃん。やーちゃんはもう俺のモン、男同士ならガキできる心配ねぇし、やーちゃんは抱くより抱かれる側がお似合いだ」 聞き捨てならない飛鳥からの言葉に、俺は苛立ちを感じるものの。今ここで飛鳥が相手にしたいのは華らしく、鋭く揺れる飛鳥の瞳がお前は黙ってろと俺に威圧をかけてくる。 「そんなの絶対イヤっ!ゆきにぃは華のだもんっ!!!エッチなんかしなくても、ゆきにぃはいつだって華を守ってくれるもんっ!!」 「……お前ら、バカじゃねぇーの」 こんな会話で話のネタにされ、黙ってろと言う方がどうかしてる。火花を散らし勝手に始まった飛鳥と華のバトルに巻き込まれぬよう、俺が小さく呟いた言葉がコイツら兄妹の耳に入ることはなかった。

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