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第470話

「兄妹だから、やーちゃんはなーちゃんに優しくすんだろ。お前みたいな女、他人だったら相手にもしねぇよ」 「死ね、このアホウドリッ!!」 「すぐそうやって吠えるだけで、なーちゃんは家庭的でもなけりゃ、学もねぇんだ。容姿と愛嬌だけは、褒めてやるけどな」 「容姿と愛嬌だけありゃ、その辺の男は寄ってくるだろ。鳥、お前が抱く女はそんなのばっかりじゃねぇのか?」 飛鳥の発言の揚げ足を取り笑う遊馬だが、華が兄貴たちにバカにされているのは変わらないままだ。 「まぁ、間違いじゃねぇな……自分に自信ある女が、俺に寄ってくんのは確かだ。その鼻をへし折るのがイイんだよ、滑稽で」 「華は、そんなクズにはならないから。ゆきにぃが、このアホウドリみたいな女の抱き方してたとしても、アンタらと違って、ゆきにぃだけは華に寄り添ってくれるもん!!」 なんとも騒がしい華と飛鳥のあいだで、俺が黙って煙草の煙を吐いた時だった。 「……なーちゃん、マジな話すっから良く聞け。やーちゃんはもう、お前のモノでも俺のモノでもねぇんだ」 飛鳥の声色が変わり、部屋の空気が張りつめる。もう口を挟む気がなくなったらしい遊馬だけが、のほほんと正月気分で酒を飲んでいる。 「そんなのウソ、ゆきにぃはいつも華のところに帰ってきてくれるもん。ゆきにぃはいつだって、華だけのゆきにぃなんだからっ!!」 俺をあいだに挟んで始まった、飛鳥と華の言い合い。人の言うことを全く聞かないわがままな妹は、飛鳥が言った言葉が正しいことに気付いてはくれなかった。 「うるせぇークソガキ、俺の言ってることがそんなに信じらんねぇなら、見せてやるよ」 華に大きく溜め息を吐いた飛鳥は、ゆっくりと煙草を吸っていた俺のカラダを華の方に向かせて、俺が着ているシャツのボタンを上から外しニヤリと笑う。 抵抗するのも面倒で、俺はそのまま飛鳥の好きにさせていたけれど。華に見せつけるように晒された俺の鎖骨には、星がつけた噛み痕がくっきりと残っていて。 「やーちゃんはな、この痕つけたヤツのモノ。コイツが所有されてる、何よりの証拠だ」 俺から目を逸らすことはせず、ありえないとでも言いたげな華の瞳と、血が滲むほど強く噛まれた唇。いくら華が認めたくなくても、俺が愛する星くんのモノだということに変わりはない。 愛がないセックスをするなら、カラダに痕は残させない。キスマはもちろん、爪痕や噛み痕、交わった相手の存在を主張するような傷痕は、ただ邪魔になるだけだから。 そんな飛鳥からの教えを、華だってよく知っている。華が俺に特定の女を抱かないと言い切ったのは、きっと今まで俺のカラダにそんな痕をつけた相手がいなかったからだろう。 でも、今は違う。 消えない傷痕を残してほしいと願ってしまうくらいに、溺れた相手が俺にはいる。それが男だと知らずとも、俺はソイツのモノだとハッキリ華に伝えた飛鳥。 冗談ではない飛鳥からの言葉と事実を目の当たりにし、ピクリとも動かない華は、ただ黙って俺を睨みつけていた。

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