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第471話

長い沈黙のあと、抑えきれない怒りをぶつけるように口を開いた華。 「そんな痕つけたくらいで、ゆきにぃがソイツのモノだなんて誰が決めたの!?華は、絶対認めないからっ!!」 「華が認めなくても、俺はお前のモノにはならねぇーよ。もちろん兄貴のモノでもねぇーし、俺が誰とどうしようがお前には関係ねぇーだろうが」 俺が誰を愛そうと、俺の勝手だ。 ソレを認めた兄貴二人は、俺の好きなように生きろと、過去より未来を見据えてくれているのに。 ソファーに腰掛けたままの俺を仁王立ちで見下ろし、沸き立つ怒りに任せて一人で吠える華はウザい。どれだけ容姿が大人びても、華のガキっぽさは変わることがない。 「今日のゆきにぃ、おかしいよ……どうして、華を否定するの!?なんで、クソ兄貴の言うことは素直に聞くの!?」 「なーちゃん、お前もガキなりに気づいてんだろ。やーちゃんが、お前には連絡先から居場所まで、何ひとつ教えてねぇ理由があること」 涙は女の最大の武器だと見せつけるように、喚きながら泣きじゃくり始めた妹。そんな華を宥めるように、落ち着いた声で話し出した飛鳥だったが。 「華のことなんか、どうでもいいクセにっ!!アンタは、今更兄貴面しないでっ!!華は今、ゆきにぃと話してんのっ!!」 飛鳥の言葉は見事に火に油を注いだだけで、更なる怒りの炎を燃やす華はもう止まらなかった。 「ゆきにぃは、これでいいの!?華は知ってるもん、ゆきにぃがずっと大事にしてたもの……ボロボロになったサッカーボールとスパイク、何度このクソ兄貴に捨てられたって、あの二つだけはゆきにぃ大事にしてたじゃんっ!!」 「……ソレとコレとは別だ、華。俺は兄貴が好きなワケじゃねぇーし、お前が好きなワケでもねぇー。ただ、俺はもう過去に縛れたくないだけだ」 「どうしてっ!?ゆきにぃが、兄貴嫌いなのは事実じゃん!すっごく優しいゆきにぃ殴って、自分たちは好き勝手してさっ!?華は小さかったけど、それでもゆきにぃが傷ついてたことくらい、知ってるもん!!」 思い出したくもない過去を俺に突き付け、この女は何がしたいんだろう。わがままで自分のことしか考えようとしないクソ女を睨みつけた俺からは、やっぱり帰ってくるんじゃなかったと、知らぬ間に大きな溜め息が漏れていく。 やっと、少しだけ前を向いて歩く決心がついたのに。これでは、過去に引っ張られて逆戻りしてしまいそうだ。 俺が守ってやりたい相手は、華じゃない。 華への思いは単なる同情にしか過ぎなくて、今までは傷つけぬようわがままだってきいてやったし、自由気ままな兄貴たちの代わりになるよう、それなりに兄らしく振る舞い、華にだけはできるだけ優しく接してきたけれど。 怒りを通り越し、涙で濡れた瞳を俺に向ける妹が、望んでいる兄の姿はもう何処にもいないから。 コレ以上、踏み込んでほしくはなくて。 俺は初めて兄としてではなく、俺としての言葉を華に伝えることにした。

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