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第472話

「知ってるから、なんだっつーんだ。いつまでも過去にしがみついて夢見てんじゃねぇーぞ、クソガキが」 「ゆき、にぃ……なんで、そんな言い方ひどいっ!!」 今まで、酷くならないように気を遣って接していたのだから当然だ。華は星と一つしか歳が変わらないのに、何故こうも聞き分けが悪く育ったのだろう。 自由人な白石家の血の問題か、もしくは俺の接し方が悪かったのか、どっちもか。 涙で濡れた頬に、赤く染まる鼻。 しゃくり上げて泣いている華を、俺はもう抱きしめてやる気にはなれないけれど。これは、お互いが成長する上で必要な言葉だと思うから。 「俺に酷く言われなきゃ、お前はいつまで経っても分かんねぇーだろ……もう、お前に懐かれんのはうんざりだ」 遅かれ早かれ、俺から伝えなければ華には届かない俺の本心。直接顔を見て、ぐしゃぐしゃの表情で、俺の言葉を受け取った華は、流れる涙を自らの手で拭っていく。 「……ゆきにぃまで、華を見捨てるんだ!?」 「なーちゃん、やめとけ」 俺に向けられる華の言葉が、俺の心を抉っている。そのことに気づいている飛鳥は、華に忠告をするけれど。 「華はッ、優しいゆきにぃが大好きだったのにっ!!もういいっ……ゆきにぃなんて、大っ嫌いっ!お前ら全員、クソ兄貴だった!!」 捨て台詞には申し分ない内容を叫び、華は自室に篭ってしまった。 帰ってこいと人を呼んでおいて、理想の俺じゃなければ嫌だと吐き捨て、クソ兄貴だと罵った妹。華には兄としての俺しか見せていなかった分、本心を告げたら、こうなることはなんとなく予想はしていたが。 静まり返ったリビングでは、何食わぬ顔をして酒を飲み始めた兄貴たちがいて。 「やーちゃん、新年早々ご苦労だな」 「お前のせいだろうが、アホウドリ。雪は、本当にこれで良かったのか?」 「良かったも、ナニも、アイツが勝手に俺の理想を作り上げてただけだろ。華が俺に構わなくなんなら、それだけで充分……俺は、帰ってきた意味があんだと思う」 「すげぇー、やーちゃんがカッコイイ」 「うっせぇーな、最初からコレ企んでたヤツが今更ナニ言ってやがんだ。勝手に、人の身体晒すんじゃねぇーよ」 飛鳥のせいで、俺はほぼ半裸状態でしていた兄妹喧嘩。兄貴に脱がされたシャツのボタンを留め直し、俺は飛鳥にそう言った。 「なーちゃんに見られるくらい、どってことねぇクセに。お前はソイツに、何のために痕付けさせてんだよ?」 「噛み癖あるヤツだから、好きなように噛ませてやってるだけ」 「うっわ……雪、ゲロ甘じゃねぇか。気持ち悪ぃ」 「いや、まーちゃんの方がキモイだろ?」 「それな、車が恋人とかアホくせぇーよ」 華がいなくなったリビングに、漂う紫煙と酒の匂い。少しだけ打ち解け合えた兄貴二人と俺は、くだらない話をして小さく笑いつつ酒を飲み明かしていたけれど。 ただ、微かではあるが華に抉られた見えない傷痕は、俺の心に過去という戒めを残していったままだった。

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