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第474話

「お前さ、大好きな光が理想の兄貴じゃなくなった時……どう思った?」 ソファーで寛ぐオレを後ろから抱きしめ、オレの膝から肩へと預けられた雪夜さんの頭。首筋をくすぐる髪や、雪夜さんの香りに包まれて、いつものオレなら安心できるはずなのに。 どこか不安げな雪夜さんの声で問われた質問は、オレの心をざわつかせる。雪夜さんの気持ちが不安定なとき、この人はいつもこうしてオレの肩に頭を乗せて表情を隠してしまうけれど。 「どうって……あの時はパニックで、兄ちゃんが怖いって思ったのが、素直な気持ちです」 知らなかった、兄ちゃんの顔。 オレにはずっと見せることのなかった、男性としての兄ちゃんの姿にオレは驚いたし、怖かった。当時の気持ちを口にしたオレに、雪夜さんは優しく尋ねてくる。 「じゃあ、なんでそのあとお前は光を拒絶しなかったんだよ。星くんは、今でも光が好きだろ?」 なんだか雪夜さんらしくない問いの裏に、どんな意味があるのか分からないけれど。オレはオレの感じたままを、雪夜さんに伝えるために言葉を紡いでいこうと思った。 「キラキラの兄ちゃんはオレの理想で憧れで、ずっと大好きだって思ってました。でも、兄ちゃんにはオレの知らない顔があるって、あのとき気がついて」 優しくて、頼もしくて、いつも傍にいた兄ちゃん。そんな兄ちゃんへの想いを特別な好きだと思い込んでいたオレは、 あのとき初めて兄ちゃんの隠された一面を知った。 「オレの好きが違うことも、兄ちゃんに教えられて。あのときは怖かったけど、兄ちゃんより大好きになっていた雪夜さんが助けてくれたことに、オレ、とっても安心しちゃったんですよね」 ビックリしたし、パニックだったし。 正直、とっても怖かったけれど。大好きな雪夜さんが側にいて抱きしめてくれて、優しく笑う兄ちゃんがいたから。 「オレが今まで見てきた兄ちゃんとは違っても、本当は性格の悪い王子様でも……兄ちゃんは、兄ちゃんだから。理想は理想だし、逆に知らない一面を知れて良かったのかなって、今はそう思ってます」 黙ったままオレの返答を聞いていた雪夜さんは、オレを抱きしめる手に力を込め、わしゃわしゃと頭を撫でてくる。 「お前はいい子な。俺さ、正月帰った時……華に大っ嫌いだって言われて、すげぇー拒絶されたんだけど」 ボソリと雪夜さんから呟かれた言葉で、さっきの質問の意図と、雪夜さんが疲れきってる理由をなんとなく理解したオレは、雪夜さんの髪に触れてよしよしと頭を撫でた。 「なんでもいいんだけどな、嫌ってくれた方が俺としては都合いいし。ただ、アイツ親から放置されてるし、兄貴たちとも仲わりぃーからさ」 んーっとオレの首筋に顔を埋めて、悩みを教えてくれた雪夜さん。嫌いだとかどうでもいいとか、興味ないって言う裏では、お兄ちゃんなりに気にしている妹さんの存在が、今は少しだけ羨ましく思えた。

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